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ジャスティン・ビーバーや「バレンシアガ」とのコラボで注目の「クロックス」 そのマーケティング戦略とは

Aug 10, 2021.高村 学Tokyo, JP
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クロックス・ジャパンのマーケティング部・部長の出倉成昌氏(PHOTO:SEVENTIE TWO)

ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)や「バレンシアガ(BALENCIAGA)」とのコラボが世界的に話題となり、「ビームス(BEAMS)」とのコラボは即完売するなど、このところ「クロックス(CROCS)」が注目を集めている。「クロックス」は、つま先を丸く覆ったフォルムのサンダルが定番商品で、自分の好みや気分に合わせて付け替えができるジビッツ™チャームが特徴だ。約170gと非常に軽く、陸でも水中でも履けることから、水陸両方で生息するワニに因んで「クロックス」と名付けられた。ブランドが誕生してから来年で20年を迎え、展開するスタイルは120種類を超え、現在までに累計で1億足以上を売り上げている。「ブランドをどれくらい人格化できるかということをつねに意識している」と語るのは、クロックス・ジャパンのマーケティング部・部長の出倉成昌氏だ。注目を集める「クロックス」のマーケティング戦略について出倉氏に話を聞いた。

SEVENTIE TWO(以下、SVT):「クロックス」は2002年のローンチから瞬く間にグローバルブランドに成長しました。どういったことが要因でしたでしょうか。
出倉成昌(以下、出倉):ポイントはふたつあったと思います。まずひとつは、「クロックス」は、フットウェアの中でクロッグサンダルというカテゴリーに分類されますが、ビーチサンダルでもなくスリッポンでもない特異なデザインの新しさで多くの人を魅了しました。もうひとつは、機能性です。もともとはボートシューズとして誕生したサンダルですので、脱ぎ履きが楽なうえに水に濡れても滑りにくく、汚れても手入れが簡単で、何よりその圧倒的な履き心地が受け入れられました。「これ、すごい楽じゃん!」などの口コミ効果もあって、「クロック」は一気に認知拡大につながりました。グローバルブランドに成長したことで、クロッグサンダル自体の普及にも、そのカテゴリーの市場拡大にも貢献したと思います。

SVT:ジャスティン・ビーバーや「バレンシアガ」とのコラボでグローバルでの存在感がさらに増しているようです。
出倉:ジャスティン・ビーバーのようなスーパースターとのコラボや「バレンシアガ」のようなラグジュアリーブランドとのコラボなど、他がやらないような話題性のあるコラボを継続してリリースすることで非常に勢いのあるブランドだと感じていただけているのではないでしょうか。一方で、こうした奇想天外なコラボレーションだけではなく、社会的責任を担うことを非常に意識しているブランドでもあります。パンデミックが悪化の一途を辿り始めた昨年3月に医療従事者向けの無料寄付のプログラムをグローバルで実施し、86万足以上のサンダルを寄付しました。フットウェアブランドとしてやらなければいけないこと、そして企業としてやらなければいけないことを具体的なアクションを通して取り組むことを大切にしているブランドなので、そういった意味でも1つの文脈にとらわれずさまざまな分野で存在感を高めることができていると感じています。

SVT:コラボレーションの際にどういったことを意識していますか。
出倉:ブランドの魅力をどれだけディメンショナライズ(多面的に表現)できるかを意識しています。ですから、コラボレーションによって目的がそれぞれ違います。例えば、ジャスティン・ビーバーとのコラボでは、彼自身が「クロックス」が好きで履いていたこともちろんあるのですが、サンダル自体にはあまり手を加えず、ジビッツ™チャームのデザインに彼の個性を落とし込みました。「ケンタッキー」とのコラボでは、「クロックス」が好きか嫌いかというブランドに対する白か黒かを消費者に大胆な方法で語りかけるきっかけになりました。ジビッツ™から本物のチキンの匂いがするとか、商品のデザインを通して面白いことを仕掛けることで、ブランドのパーソナリティを表現することができました。「ビームス」の場合は、履き心地だけではない機能的な側面を具現化しました。「バレンシアガ」は、ラグジュアリーブランドとの協業を通してファッション業界に向けて一石を投じるようなインパクトを与えていると思います。

SVT:「クロックス」はどういった層との親和性が高いですか。
出倉:小さなお子さまからお年寄りまで、非常に幅広い層とそれぞれ異なる文脈で親和性があると思います。ツイッター上で「クロックス」のメンションは1週間あたり800から1000くらいありますが、「クロックスで出勤しちゃった」とか「雨の日のクロックス、めっちゃ水が入ってくるんだけど」など、日常を掻い摘んだつぶやきから、「洗えるからクロックス最高」といったような、商品の機能的な便益を感じて投稿してくださる方までいらっしゃいます。最近では「厚底クロックスかわいい」といったデザイン的な側面に対するコメントも増えてきました。ただ、親和性だけではモノは動かないので、具体的な動機付けをもって「持っておかなきゃいけない」「もう一足買っておこう」「買い換えなきゃいけない」という方向に持っていかなければなりません。僕らは「レゾナンス」と呼んでいますが、親和性よりもさらにもう一歩踏み込んだ、ブランドに対するロイヤリティをお持ちいただきたくためのお客さまとの絆をさらに深めていく作業が重要ですね。

SVT:スニーカーがトレンドを牽引するなかでどのようなマーケティング戦略を考えていますか。
出倉:まず前提として、僕らはスニーカー、ブーツ、ヒールなどのフットウェアブランドを競合として意識しません。競合リサーチや競合設定をしようとすると、「お店でクロックスとどのブランドで迷うか」とお客さま視点で考えると、日用品すら競合に含まれてきます。ですから、「クロックス」というブランドは、消費者の生活と心をどうすればより豊かにできるかだけを考えています。コロナ禍をきっかけにステイホームや洋服のカジュアル化がグローバルメガトレンドですので、「クロックス」の機能的な側面だけではなく情緒的な側面も含めて、役立つ瞬間や機会がどこにあるのかを常に徹底的に考え、そこに対してひたすらアプローチします。一方でそれらを実際にお客さまに対して発信、エクゼキューションする時は、社内では「サプライズ&デライト」という言葉をよく使うのですが、商品も広告もちょっとしたサプライズやクスッと喜んでいただけるような表現をしていくことを意識しています。

SVT:「ビームス」とのコラボが即完売し、4度目となるコラボでは海外にも展開しました。
出倉:コラボレーションを実施する時に、「ローカル・フォー・グローバル」という考え方を意識しています。ローカルインサイトからヒントを得ながらグローバルでの展開を意識して必要な要素を付加し、グローバルインパクトを狙うということです。「ビームス」の例で言えば、去年までは日本国内だけで展開してきたのですが、ジェフ・ステイプル(Jeff Staple)が「2020年のベストコラボだ」と発信したり、海外の転売サイトで高額で取引されたりしました。ファッションの領域では、アジアの中で日本・東京がキャピタルでそういうインパクトを生み出すことが効果的であることが事実として見えてきたので、今年はアジア発のコラボレーションとしても初めてグローバル展開に踏み切りました。

SVT:ウェルビーイングというキーワードに注目されているようですね。
出倉:社内外問わずプレゼンテーションでよくお話しさせていただくのですが、昨今の消費者は特に若年層の方は、ウェルビーイングという言葉に非常に敏感です。「クロックス」には、タグラインとして「COME AS YOU ARE™」という言葉があります。あえて和訳していないのですが、「あなたのありのまま、そのままが一番素晴らしい」という意味です。LGBTQやインクルーシビティ、さらにウェルビーイングという言葉にも紐付くとても強いメッセージだと思っています。先にお話しした「サプライズ&デライト」を意識しながら、そのコアにある根本的なポジショニングとしては、常に「COME AS YOU ARE™」という言葉を消費者コミュニケーションの中心に添えています。

もう少しセットバックして考えると、お客さまから求められているブランドの価値が変わってきています。これまではおそらくブランドの物質的な価値やサービス的な価値、そのバリューを意識されて商品を選択し購入していたと思います。特にコロナをきっかけに加速したと思っていますが、そこにバリューズ、いわゆる価値観が加わりました。生産国の問題などを含めて、そのブランドや企業がどういう責任を負って、どういうスタンスでビジネスを展開し、サービスや商品を販売しているのか、良くも悪くも消費者が見られる状態になりました。ですから、バリューとバリューズというこのふたつに一貫性を持って伝えてなければいけない、意識しなければいけない重要なポイントだと思っています。

SVT:デジタル戦略についてはどのようなお考えですか。
出倉:消費者を起点にして考えると、アパレルやフットウェアにはオンもオフもなく、すべてのショッピング(コンバージョン)がオムニチャネルの上に成り立っていると思います。例えばお客さまは店舗で実物を見ながらスマートフォンで値段や口コミをチェックしています。場合によってはメルカリや転売サイトを見ながら、これは売れる商品かどうかを見定めているわけで、消費者の観点が以前と全く違うわけです。少し前であれば、自分が所有するという前提だけで買っていたものが、今では所有するためなのか、いつか売るために購入するのか、購入目的がOWNINGとSELLINGに二極化してきました。アメリカではレンタルサービスやサブスクリプションが日本以上に普及しているので状況は異なるかもしれませんが、製品を売る側としては、それらが売る前提で買われているのか、あるいは自分でずっと着用するためなのかを重要な視点として持っている必要があります。そういったことを踏まえると、消費者にとって店頭・ECがそれぞれどこに利便性を感じてご利用くださっているかフィジカル・デジタルで区切らずに見るべきです。消費者の視点でその場でしかできない経験になっているか、利便性を追求した関係になっているか、そういったことに意識を向けています。

SVT:SNSマーケティングについてはいかがでしょうか。
出倉:「クロックス」のツイッターもそうですが、人っぽさを感じさせる言葉尻でつぶやきを投稿しています。ブランドのアカウントとはいえ、機械的ではない人間っぽさを感じていただけるとなんか面白いねとなるのかなという気がします。インスタグラムを見ていると、昨今個人や小さな規模のお店が熱狂的なファンやフォロワーを保有してビジネスを成長させているのをよく見かけます。ウェブサイトなんかはなくて、インスタグラムのフィードやストーリーズで告知してDMで一件一件マニュアルで対応しています。消費者もその店が一人か複数名でのみ運営していることをわかっていて、「今日発送しました」とアマゾンと同じようなことを言われても、そのブランドに対するロイヤリティや与える満足の度合いは全然違うわけですよね。ですから、ブランドの大小に関わらず、そのブランドをどれくらい人格化できるかというのを意識した方がいいのではないかと最近は思ったりもします。でないと「同じような商品、ここにあるので」と言われてしまい、選んでいただく理由が無くなってしまいますので、ブランドの人格化は大切です。したがってSNSではいかに人格化していくかを意識しています。

SVT:中国をはじめアジアにおける「クロックス」はどのようなポジションですか。
出倉:中国も日本同様、まだまだ成長途中といった感じです。アジアの中では韓国が好調で、競合の種類も違えば日本とは異なり路面店も少ないので、モールや百貨店でいい立地を確保したり、K-POPを中心としたインフルエンサー戦略で成功しています。中国はラグジュアリーブランドがまさにそうですが、プロパーがしっかりしているところが勝っているイメージで、そういった中で「クロックス」が中国のお客さまにどういう印象を持ったブランドなのかは個人的にすごく気になっています。

 

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