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ヴァージル・アブローの死をめぐって

Dec 1, 2021.三浦彰Tokyo, JP
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41歳という若さで亡くなったヴァージル・アブロー

「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」メンズのアーティスティック・ディレクターで自身のブランド「オフ・ホワイトc/oヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」の創業者であるヴァージル・アブロー(VIRGIL ABLOH)が11月28日に41歳で急死した。

死因は心臓血管肉腫という奇病である。心臓の血管にできる癌だという。2019年にそう診断されていたという。41歳というのはあまりにも若い。ふと自殺したアレキサンダー・マックイーン(1969.3.17〜2010.2.11)を思い出したが、彼の死は41歳の誕生日の1カ月ほど前だった。マックイーンの死からもう11年も経過しているのに驚く。正直いってあれだけスキャンダラスなコレクションを発表し続けたマックイーンも現在ではかなり忘れられた存在になってしまっている。昨年9月に表参道内で移転拡張したブティックに入ってみると、例のスーパーアイコンである髑髏のスカーフが鎮座していて懐かしかった。アレキサンダー・マックイーンはすでにブランドとして生き続け始めているが、ヴァージル・アブローは今後「忘却」とどう戦っていくのだろうか。

アブローが2018年3月に抜擢されて以来、わずか3年半の「ルイ・ヴィトン」でのメンズ・コレクションについては、まさにストリート・ラグジュアリーの急先鋒としてファッション界を沸かせた。しかし、過去の記事を振り返ると、2019年9月26日にパリで行われた「オフ・ホワイトc/oヴァージル アブロー」の2020年春夏コレクションは健康上の理由から欠席していた。9月9日に「VOGUE」が公式サイトに掲載したインタビューで、「疲労感を覚えたので医師にかかったところ、特に問題はなかった。しかし、『これほど多くのプロジェクトで世界中を飛び回る生活は、健康によくない』と言われた」と話し、その時の欠席はその助言に従ったものだとしている。

どうもこのあたりから、心臓血管肉腫は判明していたようだ。この事実をアブローは隠し続けていた。2つのブランドを手掛けるデザイナーは少なくないが、「ルイ・ヴィトン」ともなると重圧はたいへんなものだったろう。

そこで、不思議に思うのが、今年7月のLVMHによるオフ・ホワイト社(「オフ・ホワイトc/oヴァージル アブロー」の商標保有社)の株60%買収である。残りの40%はアブローが保有である。LVMHはニューガーズグループ(NGG)から買収したのであるが、買収後アブローによる新ブランドを立ち上げる予定だった。アブローは、「ルイ・ヴィトン」メンズのアーティスティック・ディレクター、「オフ・ホワイトc/oヴァージル アブロー」(ライセンス企業のNGGが手掛ける)、そして新ブランドの立ち上げと3ブランドの仕事をすることになっていたのだ。彼の死によってこの3つは完全に失くなってしまった。この契約の時の写真がある。LVMH総帥のベルナール・アルノーとルイ・ヴィトンCEOマイケル・バークに挟まれたアブローのなんとも疲れ切った表情が切ない。

しかし、「ルイ・ヴィトン」メンズのアーティスティック・ディレクター就任、オフ・ホワイト社を買収するに、LVMHはかなり綿密にアブローの健康診断を行ったはずである。それで心臓血管肉腫が発見できなかったというのは考えづらい。このあたりのいきさつは今後明らかになっていくことだろう。

とにかくやはり、焦点は「ルイ・ヴィトン」の後任だろう。これだけ派手にストリート・ラグジュアリーを打ち出しているのだし、「ケンゾー(KENZO)」のアーティスティック・ディレクターにNIGOが選ばれるようになっているのだからそういう人材でないとグループとしての統一性・継続性が保てないだろう。優秀なスタッフが揃っているのだからファレルやカニエで務まらないわけはないと思うのだが。そこまで冒険ができるのだろうか。注目である。

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