
中国発のEC大手「シーイン(SHEIN)」を運営するシーイン・グローバル・ホールディングスが9月1日、香港取引所に上場した。公開価格は1株48.56香港ドルで、初値ベースの時価総額は約265億ドル(約4兆2400億円*)。かつて「アパレル界のモンスター」とも称された「シーイン」だが、上場時の企業評価額は、2022年に記録した約1000億ドルのピークから約4分の1まで縮小した。
「シーイン」は、中国で2008年にクリス・シュー(許仰天)氏が創業した事業を起点とし、現在はシンガポールに本拠を置くグローバル企業へと成長した。もともとはウェブマーケティング事業を手掛けていたが、2012年に海外向け越境ECブランド「SheInside」をスタート。2014年に「シーイン」へブランド名を変更してから、世界的なファッションECへと急成長した。
「シーイン」の最大の特徴は、従来のSPA(製造小売り)とは異なる、データとデジタルを駆使した「超高速ファッション」のビジネスモデルにある。「ザラ(ZARA)」「ユニクロ(UNIQLO)」「H&M」といった大手SPAが実店舗を軸にグローバル展開するのに対し、「シーイン」はECを中心に、トレンドを反映した商品を極めて短いサイクルで投入。低価格、商品の豊富さ、商品投入の速さを武器に、若年層を中心に世界的な支持を広げてきた。
日本では2020年12月から本格的にサービスを展開。2022年11月には東京・原宿のキャットストリートに常設のショールーム「SHEIN TOKYO」をオープンした。店舗で商品を直接購入するのではなく、展示商品に付いたQRコードから公式サイトやアプリで購入する形式で、ECを中心とした「シーイン」のビジネスモデルを象徴する拠点となった。
急成長を支えたのが、中国・広東省などに広がるサプライチェーンだ。多数のサプライヤーと連携し、需要データをもとに小ロットで商品を生産、売れ行きを見ながら追加生産する仕組みを構築。これにより、在庫リスクを抑えながら膨大な種類の商品を投入することを可能にした。
しかし、「シーイン」を取り巻く環境は大きく変わっている。米国では2025年に、少額輸入品を関税などから免除してきた「デミニミス・ルール」の適用が中国・香港からの輸入について終了し、これまで「シーイン」の価格競争力を支えてきたビジネスモデルに逆風が吹いた。欧州でも規制や関税を巡る環境が変化しており、低価格を最大の武器としてきた「シーイン」にとって、コスト上昇は大きな課題となっている。
さらに、知的財産権を巡る問題も長年の課題となっている。2021年には、「ドクターマーチン(Dr. Martens)」を展開するエアウエア・インターナショナルが「シーイン」側を提訴。その後の訴訟では和解が成立しているものの、「シーイン」を巡ってはデザインや商標などをめぐる複数の訴訟が起きている。2023年には「H&M」も「シーイン」を著作権および商標権侵害で香港の裁判所に提訴した。「H&M」側は、「シーイン」が複数のデザインについて権利を侵害したとしている。
こうした知的財産権やサプライチェーンを巡る問題に加え、強制労働を巡る批判なども重なり、「シーイン」は欧米市場で規制当局や投資家から厳しい目を向けられてきた。ニューヨークでの上場を目指していたものの、規制・政治的な問題などを背景に計画は進まず、最終的に香港市場を選択することになった。
それでも「シーイン」の事業規模は巨大だ。2025年の売上高は約420億ドルに達しており、世界150カ国以上で顧客を抱える。今回のIPOで約17億ドルを調達し、その大部分をテクノロジーやグローバル展開に充てる方針だ。一方で、上場時の評価額は約265億ドル。2022年には1000億ドルと評価された企業が、わずか4年ほどでその4分の1程度まで評価を落としたことになる。これは単なる「IPOの評価額下落」ではなく、「シーイン」がこれまで成長を支えてきた低価格・高速・越境ECというモデルそのものが、関税、規制、競争、ブランドイメージといった新たな壁に直面していることを映し出している。
「アパレル界のモンスター」と呼ばれるまでに成長した「シーイン」。その上場は、巨大化のゴールではなく、むしろこれまでとは異なる環境で成長を続けられるかを問う新たなスタートになりそうだ。
1ドル=160円換算(9月2日時点)





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