
沖縄北部のテーマパーク「ジャングリア沖縄」が苦戦を強いられている。一方、「ノットアホテル(NOT A HOTEL)」を展開するNOTAは、NIGOやファレル・ウィリアムス、世界的な建築家らを巻き込みながら、ホテルの枠を超えた新たなプロジェクトを次々と打ち出している。
いずれも「人が集まる場所」をつくる企業だが、そのビジネスモデルと思想は大きく異なる。刀の森岡毅氏と、NOTAを率いる濵渦伸次氏。2人がつくろうとしているものを比べると、現在の勢いの違いと、令和における体験・空間ビジネスの変容が見えてくる。
■ 苦戦が続く「ジャングリア沖縄」は、マーケティング主導の限界か
「ジャングリア沖縄」は2025年7月25日に開業した。刀と、同社が筆頭株主であるジャパンエンターテイメントが手掛け、やんばるの大自然を舞台にした大型テーマパークだ。森岡氏は、USJの再建において徹底的な数学的マーケティングを駆使し、来場者を劇的に増やしたことで知られる。
刀が手掛ける「ジャングリア沖縄」でも、沖縄の海ではなく、やんばるの森や起伏のある地形に着目。マーケティングとエンターテインメントのノウハウで沖縄北部を新たな観光地に変えることを狙ってきた。しかし、開業後の集客は思うように伸びていない。
開業1周年を迎えた現在も、当初描いた大型観光施設としての勢いをどう取り戻すかが課題になっている。巨額の累積赤字を抱えるクールジャパン機構なども出資する大型プロジェクトだけに、今後の立て直し戦略に注目が集まっている。
■ アラタナ、ZOZOを経て生まれた「住宅のD2C」という発明
一方、NOTAの濵渦伸次氏は、森岡氏とはまったく異なるキャリアを歩んできた。濵渦氏は2007年にEC企業のアラタナを創業。2015年にM&AによってZOZOグループ入りし、ZOZOテクノロジーズの取締役も務めた。その後、2020年にNOT A HOTEL(現在のNOTA)を設立し、2026年1月からは代表取締役社長Co-CEO、チーフ・ビジョナリーを務めている。
濵渦氏が始めた「ノットアホテル」は、その名の通り「ホテルをつくる」ことが目的ではない。濵渦氏自身が「住宅のD2C」と説明しているように、自宅にも別荘にもなり、使わないときにはホテルにもなる住まいをオンラインで販売する。ECの発想で住宅を直接販売する、まったく新しいビジネスモデルだ。オーナーが使わない期間はNOTA側がホテルとして運営し、収益化する。
■ 100億円超の調達と、NIGOとファレルがもたらす「カルチャーの拡張」
「ノットアホテル」は2026年10月時点で全国10拠点を展開し、累計契約高は約940億円に達し、オーナー数は1300人を超えている。そして、株式発行による資金調達25億9800万円と、金融機関などからの借入75億円、総額約101億円を調達しており、大型プロジェクトを次々と動かすための資本基盤も厚い。8月にはシリーズDで100億円を調達し、既存株主からの65億円のセカンダリー取引も実施した。
さらに同社を唯一無二の存在にしているのが、グローバルカルチャーとの融合だ。2025年にはNIGOとファレル・ウィリアムスがクリエイティブアドバイザーに就任すると同時に投資家として参画。NIGOが手掛ける「THE NIGO HOUSE」を皮切りに、両者との関係を日本国内外のプロジェクトへ広げている。ファレルとNIGOによるアート・商業・ホスピタリティ複合空間「JAPA VALLEY TOKYO」は2027年春に始動する予定だ。
■ 「観光地」と「新しい暮らしの市場」、2社を分けた決定的な差
「次は何をするのか」と思わせる現在のNOTAには、圧倒的な勢いがある。「ジャングリア沖縄」で大勝負に出た森岡毅氏と、「ノットアホテル」から次々と新しい事業を生み出す濵渦伸次氏。森岡氏は従来型の「観光地」をつくろうとして、結果として単なる集客目的のテーマパークになってしまった。対して濵渦氏がつくろうとしているのは、住む、泊まる、遊ぶ、買う、そして文化に触れることまでをシームレスにつなげた、新しい「暮らしの市場」だ。
両社の明暗を分けた背景にあるのは、「マーケティング力」と「思想力」という、似て非なる本質的な違いではないだろうか。森岡氏が誇る「マーケティング力」とは、一言で言えば「すでにある需要(欲望)を分析し、確率の数学によって既存の枠組みの中で消費を最大化・最適化する技術」だ。USJのように、すでに存在する強力なIPや巨大な市場構造の中で「どうすれば人が集まるか」という解を導き出すには圧倒的な強揮を発揮する。しかし、ゼロから新しい価値を立ち上げる場面において、マーケティングだけに頼ると「既存のテーマパークの枠組み」を出ることができず、変化する消費者の本質的な欲望から乖離してしまうリスクを孕む。
一方で、濵渦氏が示す「思想力」とは、「まだ世界に存在しない価値観やライフスタイルそのものを提示し、新しい市場と文化(カルチャー)を創発する力」である。「住宅のD2C」や「シェア購入」といったロジカルな仕組みの根底にあるのは、「これからの時代の豊かな暮らしとは何か」「なぜ人がそこに惹きつけられるのか」という強いビジョンと美的感覚だ。だからこそ、単なる投資家や不動産購入者にとどまらず、NIGOやファレル・ウィリアムスといったグローバルなトップクリエイターたちがその「思想」に共鳴し、事業の枠を超えた文化的なエコシステムへとなだれ込んでいく。
「消費される体験」を精密に設計するマーケティング力か、「共鳴される世界観」から新たな暮らしをつくる思想力か。時代が求める空間ビジネスの重心が「集客(数)」から「体験と文化の共創(質)」へと大きくシフトしていることを、この2社のコントラストは如実に物語っているかもしれない。






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