
2013年10月にサービスを開始したファッションコーディネートアプリ「WEAR(ウェア)」。ユーザーが投稿した着こなしを閲覧できる同サービスは、累計2000万ダウンロードを突破している。その「WEAR」が新機能「似合うルーム by ZOZO」を搭載した。診断機能の「ファッションコア診断」は、従来の「ファッションジャンル診断」をアップデートし、「ジャンル」「与えたい印象」「味付け」という3つの軸から、一人ひとりのファッションの好みを全28タイプに分類する。
特徴的なのは、単に好みのファッションジャンルを判定するだけではないことだ。自分ではうまく言葉にできなかった好みや、他者からどう見られたいかという意識まで掘り下げ、具体的な着こなしの提案へとつなげていく。その背景にあるのが、「WEAR」に蓄積された約1500万枚のコーディネートデータと、ZOZOが2022年に表参道に開設したリアル店舗「niaulab by ZOZO(似合うラボ)」で培った知見だ。膨大なデジタルデータと、プロのスタイリストらが顧客との対話を通じて心理や好みを引き出し、蓄積してきたノウハウ。この2つをAIに反映することで、ユーザーが納得できる「似合う」の提案を目指している。
「似合うルーム by ZOZO」の開発背景と、AIによって変わるファッションとの向き合い方について、ZOZOのWEAR推進部ディレクターの藤本真美氏に聞いた。
■ 1500万枚以上のデータと「似合うラボ」の知見を融合
「ファッションコア診断」は、従来の「ファッションジャンル診断」をベースに開発された新機能だ。従来のジャンル分類をさらに掘り下げ、「ジャンル」「与えたい印象」「味付け」の3軸で分析することで、全28タイプの診断結果を導き出す。
「これまでの『ファッションジャンル診断』をベースに、開発メンバーと議論を重ねながら、より精度の高いタイプを導き出せるように設計しました。ジャンルだけでは捉えきれない好みを、複数の軸から分析できるようになったという意味で、『コア』という名称を付けています」と藤本氏は説明する。
ファッションの好みは、必ずしも本人が明確に言語化できるものではない。「きれいめが好き」「カジュアルが好き」といった大まかな分類だけでは、その人らしさや、なぜ特定の着こなしに惹かれるのかまでは捉えきれないこともある。そこで活用したのが、「WEAR」に蓄積された約1500万枚のコーディネートデータと、「似合うラボ」で得られた知見だった。
「WEARには、長年にわたって蓄積してきた膨大なコーディネートデータがあります。一方、『似合うラボ』では、お客さま一人ひとりに接客し、プロのスタイリストにも参加してもらいながら、対話を通じて好みや悩みを引き出してきました。データの量という面では『WEAR』、質という面では『似合うラボ』。それぞれの強みを組み合わせ、AIに反映させています」。
「似合うラボ」を訪れる人の多くは、自分に似合う服を知りたいと考えている。しかし、具体的に何が似合うのか、なぜその服を選ぶのかを説明できる人ばかりではない。普段どのような服を着ているのか、どんな印象を与えたいのか、これから何に挑戦したいのか。リサーチャーやスタイリストが会話を重ねることで、本人も意識していなかった好みや心理が見えてくる。そうした接客の積み重ねから得た知見を、デジタル上で再現できる形に落とし込んだ。
「リアルな接客で得られるものをデジタル化するのは、簡単そうに見えて、実は難しいことです。納得できる診断結果を出すだけでなく、その先に新しい発見や挑戦につながる提案をどう実現するか。開発メンバーとも連携しながら、試行錯誤を重ねました」。
■ 「似合う」を言語化し、新しいファッションとの出会いへ
ファッションコア診断では、診断結果を全28タイプに分類する。タイプ名には「雑踏のグルーヴ」「無言のカリスマ」「昼下がりのプレイリスト」「永遠のホリデー」など、一般的なファッション用語とは異なる印象的な言葉を採用した。その狙いは、診断を単なる分析結果で終わらせず、ユーザーが楽しみながら自分の好みを理解できる体験にすることだ。
「診断された方が言われてうれしくなったり、友達と共有したくなったりするような楽しさを意識しました。ファッションの分類では『きれいめ』などの言葉がよく使われますが、今回は今までにないカテゴライズを目指しています。キャッチーでありながら、結果を見たときにイメージが伝わることも大切にしました」。
診断結果に添えられたイラストも、ユーザーが自分自身を重ね合わせやすいよう、あえて具体的すぎない表現にしている。ネーミングやビジュアルはチーム内で数多くの案を出し合い、検討を重ねて決めたという。藤本氏自身の診断結果は「永遠のホリデー」。普段からリラックスした着こなしを好むという藤本氏は、結果に納得したそうだ。
診断結果には、タイプの特徴に加えて、そのタイプらしい「あるある」も表示される。機能の提供開始日に開催した体験イベントでは、診断結果を見た来場者から「確かに」「本当に当てはまっている」と納得する声も寄せられた。自分でも気づいていなかった好みが言い当てられる納得感も、この診断の楽しさの一つだ。
もちろん、診断を楽しめることだけが目的ではない。自分の好みを言語化できれば、日々の服選びで迷ったときの手がかりになる。さらに、自分が好きだと思っていた着こなしの特徴を知ることで、これまで選ばなかったアイテムにも関心が広がる可能性がある。
「自分に似合うものを知りたいというニーズは、ユーザーアンケートでも見えていました。ただ、その手前に『失敗したくない』『もう少し新しい着こなしに挑戦したい』という気持ちがあると思っています。何が似合うのかが分からないから、挑戦できない。まずは『似合う』を知ってもらい、そこから『こんな服も好きかもしれない』『これにも挑戦してみよう』という意欲が生まれるきっかけになればと考えています」。
■ 診断から提案、試着まで。AIを使い分けて体験を設計
「似合うルーム by ZOZO」の特徴は、診断結果を提示するだけで完結しないことだ。診断からコーディネートの提案、結果の説明、さらに試着へと、ユーザーが段階的に体験できるよう設計されている。診断と着こなしの提案には、これまでに蓄積してきたデータと自社のAIを活用する。一方、説明文の生成や試着機能には外部の技術も組み合わせ、精度を確認しながら提供している。機能ごとにAIの役割を分け、それぞれに適した技術を用いる考え方だ。
提案されたコーディネートの説明を担うのは、「ラボくん」というキャラクター。なぜその着こなしが似合うのか、なぜそのアイテムがおすすめなのかを、スタイリストが説明するようなテキストで伝える。「診断結果が出るだけでは、ユーザーが『なぜ自分に似合うのか』を理解できないこともあります。そこで、ラボくんが理由を説明することで、結果に対する納得感を高めたいと考えました。診断で自分の好みを知り、提案で新しい着こなしに出会い、説明によってその理由を理解し、試着で実際の着用イメージを確かめる。それぞれの機能に役割を持たせています」。
この一連の体験で重視したのは、ユーザーが普段好んでいる着こなしを尊重しながら、新しい発見につなげることだ。自分の好みから大きく離れた提案ではなく、これまでの傾向を踏まえつつ、少しだけ選択肢を広げていく。その積み重ねが、ファッションへの興味や挑戦を後押しする。
さらに、「WEAR」と「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」が連携していることも強みとなる。「ゾゾタウン」で取り扱う商品や購入データ、お気に入りに登録したアイテムなどを活用することで、ユーザーが持っている服や関心を寄せているアイテムを踏まえた提案にもつなげられる。診断をきっかけに生まれた興味を、具体的な商品との出会いや購入へと結び付けられる点は、コーディネートアプリ単体では得にくい価値だ。
■ リアルなユーザーの反応が、開発の手応えに
「似合うルーム by ZOZO」のリリースに合わせて、ZOZOは新機能の体験イベントを開催。WEARユーザーやWEAR公認ユーザー「WEARISTA」など、約80人が参加した。診断からコーディネートの提案や説明、試着までの一連の流れを体験してもらったところ、診断結果に対する驚きや共感の声が寄せられたという。
「実際にお客さまに体験していただくなかで、好みを言語化することの難しさを改めて感じました。好きな服や着てみたい服はあっても、なぜ好きなのか、どういうスタイルが自分に合うのかを説明するのは難しい。診断結果を見て『確かに当てはまっています』『本当にそうです』という声をいただき、これまで取り組んできたことは間違っていなかったと感じました」。
ファッションに長く携わってきた藤本氏自身も、今回の診断を通じて気付いたことがあったという。体型や髪型などを踏まえ、何が似合うかを判断する感覚は、日々の経験のなかで自然と身に付いている。しかし、それを言葉にして整理すると、新たな発見がある。
「自分のなかに『似合う・似合わない』の基準はあると思います。ただ、言語化してみると『自分はこういうことを意識していたんだ』と気付くこともありました。自分では分かっているつもりの好みも、改めて説明されることで理解が深まる。そうした体験を多くの方に届けたいと思っています」。
開発にあたっては、ビジネス部門と開発部門の連携も重要だった。藤本氏が管轄するビジネス部門にはマーケティングや投稿管理などがあり、開発部門ではエンジニアを含むメンバーが内製でサービスを開発している。ファッションへの知見を持つメンバーが多く、データや技術だけでなく、実際に服を選ぶ人の感覚を踏まえてサービスを形にしてきた。
■ 「失敗したくない」の先にある、ファッションの楽しさ
「似合う」という言葉には、単に外見に合っているという意味だけでなく、他者からどう見られたいか、自分らしさをどう表現したいかという意識も含まれる。日々の服選びで失敗したくないという気持ちの背景には、周囲からどう評価されるかという心理もある。藤本氏は、その心理も含めて探求を続ける必要があると考えている。
「失敗したくないという気持ちの先には、もっと魅力的に見られたいという心理もあると思います。ただ、そうした価値観は時代やトレンドによっても変わります。何が似合うのか、どう見られたいのかというテーマは、これからも探求し続けていきたいです」。
「似合うルーム by ZOZO」は、ローンチから約1カ月の段階で、ユーザーの利用や「ゾゾタウン」への送客につながる動きも見られているという。今後も利用傾向を分析しながら、提案の精度を高め、より多くのユーザーに届けていく方針だ。
「最終的な目的は、WEARやゾゾタウンを使うユーザーの満足度を高めることです。自分に似合うものが分かることで、日々の服選びが楽になり、新しいファッションにも挑戦できるようになる。そうした体験を通じて、ファッションそのものがもっと楽しくなり、ファッション業界全体が盛り上がっていくようなサービスにしていきたいと思っています」。
膨大なコーディネートデータと、リアルな接客を通じて培った知見。その両方をAIでつなぐことで、「WEAR」は「何を着るか」を探すサービスから、「自分に何が似合うのか」を理解し、新しいスタイルに出会うためのサービスへと進化しようとしている。「似合うルーム by ZOZO」が目指すのは、単に正解を提示することではない。ユーザーが自分らしい装いを知り、納得し、次の一歩を踏み出す。そのきっかけを生み出すことにある。









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