
米国のスポーツブランド「ニューバランス(New Balance)」と日本の「アシックス(ASICS)」が、世界のスポーツブランド市場で存在感を高めている。売上規模ではニューバランスがアシックスを上回り、その差はまだ小さくない。ただ、両社を比較すると興味深い事実が浮かび上がる。ニューバランスもアシックスも、直近5年間にわたって二桁成長を続け、ほぼ同じようなスピードで事業規模を拡大してきたのだ。
ニューバランスは2月19日、社長兼CEOのジョー・プレストン(Joe Preston)が事業説明を行い、2025年度の売上高が92億ドル(約1兆4628億円、1ドル=159円換算)に達したことを明らかにした。前期比19%増と二桁成長を続けており、二桁成長は5期連続。2026年度には売上高100億ドル(約1兆5900億円)の達成を目指している。
一方、アシックスは8月14日に通期業績予想を大幅に上方修正。売上高は従来予想の9500億円から1兆500億円へ引き上げ、前期比29.5%増となる見通し。年間売上高として初めて1兆円の大台を突破する。営業利益は1950億円、親会社株主に帰属する当期純利益は1200億円を見込み、売上高、営業利益、純利益のすべてで過去最高を更新する見通しだ。
ニューバランスはこの5年間で売上高を約2.8倍に拡大、一方のアシックスも2021年の4040億円から2026年予想の1兆500億円へ、約2.6倍に拡大する計算になる。両社の売上規模にはまだ差があるものの、それぞれ異なる戦略を取りながら、この5年間、ほぼ同じような勢いで事業規模を拡大してきた。
ニューバランスの成長を支えているのが、世界的なブランド力の向上だ。2024年1月には、米大リーグのロサンゼルス・ドジャースに所属する大谷翔平選手と長期のエンドースメント契約を締結。スパイクなどを提供している。大谷選手をはじめとする有力アスリートとのパートナーシップに加え、グローバル展開、アパレル、直営店やECなどのD2Cチャネルも成長を続けている。
ランニングカルチャーへの投資も積極的で、「ニューヨークシティ・マラソン」との長期パートナーシップ契約を更新。ランニングを単なるスポーツカテゴリーではなく、ブランドを世界に広げるカルチャーとして捉えている。アシックスも「東京マラソン」のオフィシャルパートナーとして、ランナー向けの記念Tシャツや限定シューズの展開、東京マラソンEXPOでのブース出展などを行っている。両社がランニング市場を重要な成長領域としている点は共通している。
今後のアシックスの成長を考えるうえで注目したいのは、シューズやアパレルの販売だけではない。アシックスは近年、ランニング関連のデジタルプラットフォーム企業を相次いで買収している。2022年11月には、欧州最大級のレース登録サイト「ニューコ(njuko)」を運営する企業を約20億円で買収。フランスをはじめ、英国、イタリア、ドイツなど欧州主要国でサービスを展開するレース登録プラットフォームを傘下に収めた。さらに、スペインでレース登録サイト「デポチケット(Deporticket)」を運営するDPTK INNOVACION TECHNOLOGIA、タイのランニングイベント登録サイト「THAI RUN」を手がけるThaidotrunも買収している。日本やオーストラリアのレース登録サイトも傘下に収めており、世界各地でランナーとの接点を広げている。
これらの買収は、単純に売上高を積み上げるためだけのものではない。アシックスが押さえようとしているのは、ランニングシューズを購入する瞬間だけではなく、ランナーが大会を探し、エントリーし、トレーニングし、レースに参加し、記録を残し、次の大会を探すまでの一連の接点だ。「大会に参加する」というランナーの行動を起点に、レース登録、トレーニング、商品購入、データ管理、コミュニティ形成までをつなげることができれば、アシックスは単なるスポーツ用品メーカーから、ランナーを取り巻くエコシステムを持つ企業へと変わっていく。
レースの参加履歴や地域ごとのランニングトレンドなどのデータが蓄積されれば、商品開発やマーケティング、店舗展開にも活用できる可能性がある。つまりアシックスは、シューズを売るためにランナーを集めるだけではなく、「ランナーとの関係そのもの」を事業資産にしようとしているともいえる。
さらにアシックスには、ランニングとは別の成長軸もある。「オニツカタイガー(Onitsuka Tiger)」は2026年12月期中間期に売上高895億3300万円(前年同期比35.9%増)、カテゴリー利益355億7800万円(同38.3%増)と大幅に伸長。スポーツスタイルも売上高1231億8600万円(同83.0%増)、カテゴリー利益419億2300万円(同103.0%増)と急成長している。パフォーマンスランニングを世界展開の柱としながら、「オニツカタイガー」をグローバルなライフスタイルブランドとして成長させる。アシックスは現在、スポーツとファッションの両面で世界市場を攻略しようとしている。
ニューバランスとアシックス。現在の売上規模ではニューバランスが一歩先を走っている。しかし、この5年間の成長率を見る限り、両社は決して一方だけが急成長しているわけではない。むしろ、ほぼ同じようなスピードで世界的なスポーツブランドへと巨大化してきた。
そして、次の5年間に両社の差を生むのは、売上規模そのものではなく、消費者との接点の深度かもしれない。大谷翔平選手をはじめとするスターアスリートや「ニューヨークシティ・マラソン」など、強力なブランド接点を持つニューバランスに対し、アシックスは大会、レース登録、ランナー、データ、トレーニング、商品をつなぐ「ランニング・エコシステム」の構築を進めている。両社は同じスピードで巨大化してきた。次の競争は、その先にある。







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