今年創業50周年を迎えた婦人服アパレルAiiA(アイア)の創業者である萩島宏(はぎしまひろし)社長が6月24日、死去した。76歳だった。「ルーニィ(LOUNIE)」や「ココディール(COCO DEAL)」などの製造・卸・販売の経営で知られているが、実は、メディア事業、ゲーム事業、エステや化粧品、飲食や不動産など、多角化経営を行うユニークかつ商才あふれる実業家だった。
萩島社長は終戦直前の1945年5月に茨城県水戸市で生まれ、静岡県三島市で育った。医師の家系だが、日比谷高校ではラグビーに明け暮れ、慶應義塾大学法学部を卒業後、野村証券に就職。2年半で見切りをつけ、1971年にアイアの前身となる萩島商事を新宿区で創業した。1988年に目黒に本社を移転。ハギシマ(Hagishima)の母音を取ってアイアに社名変更したのは2004年のことだ。
創業初期から、国鉄(当時)の交通広告や、貿易、採石、飲食店、アパレルなど、様々な商売を手掛け、当初は「何をやっても簡単に儲かった」という。しかし、人任せにしていたところ、全て赤字に陥ることに。取捨選択をする際、遅くまで楽しそうに仕事をしていたアパレルに本腰を入れることにした。1981年に「ルーニィ」の事業部をつくり、企画から生産、販売まで一貫してこだわるSPAに舵を切っていった。ブランドバリューを高める施策にも熱心に取り組んできた。アパレル事業の売上高は年商120億円前後と堅実に成長してきた。
そこで1993年に創設したメディア事業部が当たった。1994年にパズル誌「クロスワードパクロス」を創刊。のちに英国「ザ・タイムズ」紙にパズル問題を提供するようにもなった。2003年にはiモードに「懸賞パズルパクロス」開設するなど、モバイル・webコンテンツへ進出し、時代とともに進化。現在は総合エンターテインメントへと展開を広げている。
2011年に開設したSNSサイト「I-SKY」では、HKT48のカードゲームや、韓流アイドルのチャン・グンソクやジェジュンが登場する恋愛ゲームなどを配信。(「HKT48 栄光のラビリンス」「チャン・グンソクときめきLoveストーリー」「Myダーリン♥ジェジュン」)。ゲームアプリ「乃木坂46リズムフェスティバル」もリリース。2015年には音楽プロデューサーの秋元康をコンセプターに起用したブランドを立ち上げたりもしていた。
2014年3月に青山学院大学のはす向かい、国連大学の並びの一等地(東京都渋谷区渋谷1丁目)に地上13階、地下1階の新社屋を開設できたのも、この多角化経営によるものだ。萩島社長は「人こそ会社の宝」といい、「本社はプロフィットセンター」と呼んでいた。人材の育成・獲得のための設備投資であり、エンジニアを含めた優秀な人材を集めやすい、ブランディングにも寄与すると考えていた。
グループでは、教育事業にも力を入れた。2004年に創業した保育園「アンジェリカ」は、農園、食育、絵本、英語、リズム(音楽)にこだわり、自尊、協調、自立、創造の心を育てる良質な保育園として広がり、2016年に双日グループに全株式を譲渡した際には東京23区内で15カ所を展開する評判の保育園となっていた。
また、2010年には、日本への留学を希望する外国人向けの日本語学校「東京育英日本語学院」を設立し、理事長に就任。東南アジアをはじめ、世界各国と取引をする中で、国際的に通用する人材の必要性を実感し、有力な人材の輩出に尽力した。
他にユニークなのは劇場運営だ。2012年から渋谷区の国立代々木競技場の旧・渋谷マッスルシアターをアイアシアター・トーキョーとして運営。オリンピックを控え、2018年に閉鎖する一方で、2019年には新神戸オリエンタル劇場を引き継ぎ、AiiA 2.5 Theater Kobeをオープンしている。
もう一つ、2017年に買収した貸し切りバスやナイトライナーなどを手がける東京富士交通がある。バスの車体や配布物などをプラットフォームとして、広告事業も展開していた。さらにかつては銀座でクラブにも投資をしていた。
2021年は創立50周年、「ルーニィ」の40周年という記念の年であったが、2018年ごろから癌を患っていたが、これは克服したものの、6月24日に急死した。アイア社長の後任には菊地景子専務が昇格し、遺志を引き継ぐ。9月中旬に「お別れの会」を予定している。
商才に溢れた稀代の実業家の冥福を祈る。