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朝日新聞記者自殺の背景にある最大の問題は何か?

Nov 9, 2021.三浦彰Tokyo, JP
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朝日新聞社(PHOTO:SEVENTIE TWO)

朝日新聞大阪本社の経済部に所属する男性記者(33歳)が10月6日に大阪市内のマンションで飛び降り自殺した。この事件は一般マスコミでは取り上げられなかった。しかし、11月2日配信の「文春オンライン」や11月4日発売の「週刊文春」では、その後男性記者の上司が人事異動したことや男性記者の上層部批判ととれるツイッターや自殺の原因になった記事などが紹介されている。

それに拠ると、直接の原因になったのは、男性記者が10月2日に書いたパナソニックが発表した1000人にも及ぶリストラ関連の記事で、そのトーンが従業員寄りで強すぎたために、前述上司から叱責されたこと。その記事の4日後、つまり男性記者の自殺当日朝の朝日新聞の紙面では、パナソニックのリストラについて「分社化による意思決定の迅速化」「改革」といった前向きな記事が掲載されていたという。なんともやりきれない事件である。パナソニックは朝日新聞に年間約5000万円の広告を出稿する大手クライアントであり、1000人を超えるリストラ(実際には1000人を超える早期退職の応募があった)の記事だけに慎重な上にも慎重な記事が求められたのだろう。男性記者の記事にはそうした忖度が見られなかったということで、スポンサーから上司にクレームが入ったのであろう。そうして悲劇は起こったということなのだろう。

一方、朝日新聞グループ傘下の「アエラドット」は11月8日付で、新垣謙太郎氏による「メディアDX研究2」として「アマゾン創業者ジェフ・ベゾスが甦らせた名門『ワシントン・ポスト』有料デジタル版が大成功した秘密」を掲載している。それによると新垣氏は「現在全米最多のデジタル・サブスクリプション(定期購読)を誇る『ニューヨーク・タイムズ』には500万人以上の購読者がいるが、同社が提供する料理レシピやクロスワードなどのアプリを含めると、全体の有料デジタル会員数は700万人を超える。2020年には初めて同紙の販売・広告を合わせたデジタル収入が紙媒体を上回り、これまでの新聞業界の常識をくつがえした」と書き、その「ニューヨーク・タイムズ」に続く「ワシントン・ポスト」では、「有料のデジタル購読者数が昨年300万人に達した。さらに日刊紙『USAトゥデイ』もデジタル版をスタートしてから25年間以上も記事を無料で提供し続けてきたが、今年7月に有料化に踏み切った」と続ける。

さらに新垣氏は2016年に行ったベゾスの「ワシントン・ポスト」の経営戦略転換についての講演を引用している。「少数の読者から比較的高額の購読料を取って来たこれまでのやり方から、少額の料金でより多くの読者から購読収入を得る方針に我々は切り替えなければならないのだ」。

紙媒体を止めてデジタル化を進めるというのは新聞生き残りの唯一の道だが、さらに重要なのは有料デジタル定期購読者の幅広い拡大ということだ。

こうした有料デジタル定期購読者拡大というのが、日本の読売・朝日・毎日ではうまく行っていない。特に朝日、毎日では早期退職が繰り返されて、大口スポンサーに対する忖度が横行している。今回自殺した朝日新聞の男性記者もそうした逼迫した経営状況の犠牲者のように感じられる。同じ朝日新聞グループの「アエラドット」がその最大の原因を指摘しているというのがなんとも皮肉である。注意しなければならないのは、広告収入に頼らない収益構造を確立しないと新聞媒体としての自立性が保てないということだろう。ニュースはスマホならタダで見られるという意識を大転換させて「本当に知りたいことには金を払う」という正常な状況を回復することが重要なのではないか。新聞はなくしてはならないものである。新聞が1カ月なくなったらすぐにスマホでニュースは見られなくなることを生活者は知るべきである。「ニュースはタダ」という意識こそ変えなければならないものであろう。スマホのニュースサイトに100万PVのニュースを提供しても2万円にしかならないニュースの提供をするよりも、もっとやることがあるのではないか?分からなければ、ベゾスにでも教えてもらうしかない。

 

 

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