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「ベスト・ファーザー賞」と「繊研賞」 非常識な授賞と受賞にその「常識」を大いに疑う

Jul 10, 2021.久米川一郎Tokyo, JP
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繊研賞贈呈式

先月の父の日に、元プロ野球選手の清原和博氏が2021年「ベスト・ファーザー賞in関西」を受賞して話題になった。清原氏を含め泉房穂明石市長(政治部門)、石井亮次アナウンサー(メディア部門)など計6人が受賞している。主催は本家「ベスト・ファーザー賞」のMFU(日本メンズファッション協会)ではなく、一般社団法人日本文化推進協議会(JLCA)。シズルジャパンの金住哲子社長が理事長で、副理事長には水野明人ミズノ社長、理事にはファッションデザイナーのコシノヒロコ氏の名前もある。「関西」の存在感をアピールするのが目的のようだ。

しかし、今回の清原受賞はいかがなものか。清原氏は昨年6月には執行猶予が満了。今月10日には巨人対阪神戦のテレビ解説が決まっているという。しかし、である。これには、賛否両論というよりちょっとハメを外し過ぎだという声が多く上がっている。覚醒剤取締法での逮捕歴や離婚歴を持つ男はベスト・ファーザーにはふさわしくないし、薬物に対する青少年の意識にも悪影響を及ぼすという大方の意見に同感だ。こういう人は「裏道を静かに歩きなさい」とは言わないが、こういう顕彰は辞退するのが「常識」というものであろう。

もうひとつのあきれた授賞が7月7日に贈呈式のあった「第43回(2020年度)繊研賞」。受賞者はユーモアを大切に提案する新しいスタンダード「ビューティフルピープル」(デザイナー・熊切秀典氏)、強いクリエーションを支える持続可能な物作りを築く「マメ・クロゴウチ」(デザイナー・黒河内真衣子氏)、アパレルから広がる販売スタッフ支援アプリ「スタッフスタート」(バニッシュ・スタンダード)、明治から受け継がれる高品質な物作りのマルナカ、「アウトドア義援隊」で被災地支援にも取り組むモンベルに贈られた。まあここまでは特に異論もない。しかし、6人目の特別賞受賞者にはあんぐり口を開けてしまった。特別賞は日本のファッションビジネスに貢献したオンワードホールディングス最高顧問(選考当時)の廣内武氏に贈られた。同新聞の7月8日号の第2面には5人の受賞者が顕彰楯をもって座っている写真が掲載されている。その中央に特別賞の廣内氏が鎮座しているのだ。過去の同氏の偉業については知らないが、この2年間世界で1000店舗を閉店し、早期退職者募集を行って、まさしく創業以来未曾有の経営危機にある時期にこういう賞を平然と受賞する神経が分からない。この写真を見て、目をそむけた人間は今回のリストラでオンワードグループを去った人間のみならず少なくないはずである。さらに紙面を読むと廣内氏は「生きる活力や喜びを提供することが服の役割。これからもみなさんと一緒に業界に貢献していきたい」と平然と語っているのだからこちらの方が赤面してしまう。

少なくとも現在のオンワードホールディングスには廣内氏に対して「辞退されてはいかがですか?」という人間がいないのだろう。よく記事を終わりまで読んだら御丁寧にも保元道宣オンワードホールディングス社長が5人の選考委員の1人なのだから何をか言わんやである。

どうも「常識」というものが通用しない業界のようである。そういう非常識が日本におけるファッション&アパレル業界の正常な発展を妨げてきたのを改めて実感する。

またこういう授賞を平然と行う繊研新聞の「非常識」に失望した読者も少なくないだろう。

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