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繊研新聞の「最もクリエイティブなデザイナーランキング」に異議あり!

Jan 21, 2021.三浦彰Tokyo, JP
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NEW YORK, NY - MAY 01: Rei Kawakubo attends the 'Rei Kawakubo/Comme des Garcons: Art Of The In-Between' Costume Institute Gala press preview at Metropolitan Museum of Art on May 1, 2017 in New York City. (Photo by Noam Galai/WireImage)

1月21日の繊研新聞に「日本の有力店が選ぶ最もクリエイティブなデザイナーランキング/存在感強まるラフ・シモンズ。上位陣の得票は少差に」という青木規子記者の記事が載っている。年2回行われる恒例のランキングだ。ちょっと突っ込んでみると、「上位陣の得票は少差」なら得票を表記して欲しいし、この「最もクリエイティブなデザイナー」を選ぶのに、セレクトショップのバイヤーの投票がふさわしいのかどうか甚だ疑問ではある。ましてや百貨店のバイヤーは場違いであろう。例えば「サカイ(sacai)」に対する三越伊勢丹の「アイテムバランスや価格戦略などマーチャンダイジングの精度が上がっている」や「プラダ(PRADA)」に対するそごう・西武の「店頭売り上げは芳しくない状況が続いているが、リ・ナイロンは今のニーズにあっているし、ロゴプレートの復活にも期待したい」のコメント。これは最もクリエイティブなデザイナーを選ぶ際には考えなくていい要素である。このバイヤーたちの頭の中は「最も売れているブランド」である。他のバイヤーも似たようなものだから、このタイトルは間違っているのではないか。「最も売り上げを期待できるブランド」に変更すべきだろう。

そもそもランキングを見て、「コム デ ギャルソン(Comme des Garcons)」の川久保玲が海外レディスのベスト10から洩れている。ちなみに海外メンズでは第5位。「クリエイティブ」の代名詞のような川久保玲がベスト10から洩れているだけでこのランキングに価値があるのかどうか疑わしい。コム デ ギャルソン社は繊研新聞の購読を止めてしまったとしても不思議ではない。

「サカイ」の阿部千登勢は国内レディスの第1位に選ばれているが、「コム デ ギャルソン」の川久保玲は海外デザイナーなんていう分類に意味があるのか。ちなみに「ノワール・ケイ・ニノミヤ(Noir Kei Ninomiya)」の二宮啓は国内デザイナーである。あれ、そう言えば渡辺淳弥、山本耀司、森永邦彦の名前が全くベスト10に出てこないのも?である。なにか事情があるのかと勘繰りたくもなる。森永邦彦「アンリアレイジ(ANREALAGE)」など、ひたすらクリエイティブなデザイン活動に邁進しているデザイナーだ。この国内ベスト10にランクインしたビジネスとクリエーションの兼ね合いばかり気にしているデザイナーたちの後塵を拝していると知ったら号泣してしまうのではないか。

そうした目で見ると、海外レディスと海外メンズの第1位に輝いた「ジル・サンダー(Jil Sander)」のルーシー&ルーク・メイヤー(Lucie&Luke Meier)の「偉業」も、まさかオンワードホールディングスに「忖度」した結果ではないだろうななどとあり得ない疑いまでもってしまう。ルーシー&ルークのコレクションはブランドDNAをうまく生かしたコレクションで私も評価しているが、これに「クリエイティブ」と形容詞をつけるジャーナリストがいたら、レッドカードものであろう。

そもそも、「クリエイティブ」というのはどういうことなのだろうか。「デザイナーの個有の創造力以外に何も感じさせないようなクリエイション」のことであろう。最もクリエイティブな海外デザイナーベスト10に選ばれなかった川久保玲は、「世界には服が多過ぎる」と「私がデザインに求めるのは『強さ』」と言っている。クリエイティブを言い表している言葉だと思う。私流に言い換えれば「世界には似たような服が多過ぎる」そしてあまりにも主張の弱過ぎる服が多過ぎる」ということである。

それとこのランキングでもそうだが、現在のファッションの世界を支配しているのが、「ブランド」だということだ。デザイナーランキングと言いながらブランド名の方が全面に出ている。その典型例がいわゆるラグジュアリーブランドの傭兵デザイナーシステムだ。デザイナーは、そのブランドのDNAを現代に再生するために己の才能をつぎ込んでいる。そこにはデザイナー本来のなすべきクリエーションというものが不当に閉却されてしまっている。実はこれが現代のファッション業界の最大の問題点なのかもしれない。

デザイナーというのは、本来凡百たるデザイナーの先頭に立って、クリエーションの未来の方向性を示すような存在であったはずだが、いつごろからか個性を失ったアレンジャーになりさがってしまったのだ。今は亡きフランコ・モスキーノ(Franco Moschino)が言っていたファッション・システム、つまりファッション資本主義があまりに長くファッションの世界を支配した弊害だろう。

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