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63年ぶりの無敗二冠馬デアリングタクト誕生で思い出されたミスオンワードと樫山純三

May 25, 2020.久米川一郎Tokyo, JP
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「BSイレブンうまナビ!」より

5月24日日曜日に東京競馬場(東京都府中市)で行われたオークス(優駿牝馬)で断然の1番人気に支持されたデアリングタクト号(松山弘平騎手騎乗)が2分24秒4のタイムで走破して優勝した。オークスとは、3歳の牝馬(メス馬)限定のレースで現在は東京競馬場の2400mの芝コース(日本ダービーと同じ)で行われるレースで今回が第81回目になる伝統のレースであり、4月に阪神競馬場芝1600mコースで行われるやはり3歳牝馬限定の桜花賞と並んで、3歳牝馬ナンバーワンを争うレースである。今年4月12日の桜花賞を3戦3勝で制したデアリングタクト号に期待がかかったが、見事に勝利して4戦4勝で63年ぶりの無敗の二冠馬(桜花賞とオークスを両レースを制する)の誕生になった。

「63年ぶり」ということで、一体その63年前の馬は何か?ということになるが、これは第18回オークスを制したミスオンワードという馬である。三冠馬シンザンを調教したことで有名な名門の武田文吾厩舎の馬でオーナーは樫山純三氏(1901〜1986)。言わずと知れた現在のオンワードホールディングスを1927年に大阪で樫山商店として創業した日本アパレル業界の父とも言うべき存在である。その樫山商店は樫山株式会社(1947年)になり、1988年オンワード樫山へ改称、その持株会社としてオンワードホールディングスが2007年に設立され現在に至っている。ちなみに樫山純三はNHK朝の連続テレビ小説「おはなはん」(1966〜1967年)で知られる女優の樫山文枝の伯父でもある。

この樫山純三は、長野県北佐久郡小諸町(現在小諸市)生まれ。尋常小学校卒業後、日本橋三越で丁稚(でっち)として働いた後に大阪の貿易学校を卒業して前述の樫山商店を設立した。競馬好きとして知られ、樫山商店が軌道に乗ると、競走馬に投資を始める。その最大の成功のひとつがこのミスオンワード(1954〜1986)である。1959年に6戦6勝で桜花賞を制し、8戦8勝でオークスを制した。英国ダービー創設で知られるダービー卿が1779年結婚する際に、自身が保有する樫(オーク)の森が茂る土地で3歳牝馬のレースを開催することを発案したのがオークスの由来だが、樫山純三は因縁を感じていたに違いない。さらに驚くべきは牝馬でありながらミスオンワードは2週間後の日本ダービーにも挑戦した(結果は20頭立ての17着)。後にオンワード樫山の「ミスオンワード」という婦人服のブランド名にもなっている。

このミスオンワードの成功で樫山純三は1960年には北海道にオンワード牧場を設立し、競走馬育成ビジネスに参入する。このオンワードという名前は、樫山純三が日本橋三越で丁稚をしていた頃に聞いた賛美歌379番「オンワード・クリスチャン・ソルジャー」に感銘を受けたのが由来になっている。

樫山純三にとって、その競馬人生で最大の勲章は、1972年のフランスダービーで優勝したハードツービート号であろう。これは樫山純三が国際的競馬人となった証左と言えるかもしれない。創業者樫山純三の後を弱冠38歳で1973年に継いだのが、中興の祖とも言われる馬場彰氏、現オンワードホールディングス名誉顧問である。その就任時に、馬場一派と樫山ファミリーを担ぐ一派との経営の主導権をめぐる跡目争いがあったのだが、樫山ファミリーはオンワード牧場の経営に専念するという結着になって、オンワード樫山のその後の成長が始まったとも言える。その後オンワード牧場は、社台グループの台頭などもあって先細りになって、2012年に後継者難を理由に閉鎖されている。

さてオンワードホールディングスは、2020年2月決算521億3500万円という巨額の最終赤字を計上した。もちろん過去最高額の赤字である。日本の大手アパレルメーカーとしては最大手企業の同社は昨年国内外にある3000店舗のうち700店舗の閉鎖を発表して世間を驚かせたが、今年2月決算でもさらに700店の閉鎖を発表。ほぼ半数の店舗を閉鎖するという荒治療に踏み切っている。この521億円の最終赤字はその構造改造のための大出血ということになる。しかしこの苦境に加えて3月からの「コロナショック」が全世界を襲い、かつてはオンワード樫山と覇を競ったレナウンは5月15日に倒産した。オンワードは大丈夫なのか?そんな時期に63年ぶりにミスオンワード以来の無敗の二冠馬誕生というのは、天国の樫山純三の声のように聞こえてならないのだ。「オンワード」というのは、「前へ」という副詞であるが、この大苦境をなんとかしのぎ切ってもらいたいものである。

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