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毎日新聞に追跡記事 電通の「中高年個人事業主制度」はうまくいっているのだろうか?

Sep 24, 2021.三浦彰Tokyo, JP
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9月21日の毎日新聞に掲載された「さらば正社員 中高年を個人事業主にした電通の『大実験』」(松岡大地記者)が話題になっている。昨年11月に発表になり、社内公募に対象の2800人(新卒で勤続20年以上、または中途で勤続5年以上で40歳以上60歳未満の社員)のうち約230人(全社員の3%)が応募したライフシフトプラットフォーム(LSP)の追跡記事だ。正社員から個人事業主になって電通在籍時の約半分と推測される固定給を受けながら陶芸家への道を歩むべく修行中の大谷麻弥さん(54歳)を紹介している。

この「個人事業主制度」について、電通には「リストラという考えは1ミリもない」(野澤友宏同社キャリア・デザイン局クリエイティブディレクター)という。電通ではニューホライズンコレクティブ合同会社(NHC)を設立して個人事業主たちとの業務の調整を行なっている。例えば同業他社の仕事を個人事業主が請け負ったりしないような監督を行なったり、電通本体や他の個人事業主との協力関係をアドバイスしたりするという。固定給は3年後、6年後にそれぞれ減額される。その代わり個人事業主のインセンティブ報酬がスキルアップに従って増えていくというシステムだ。10年後に期限が切れ固定給がなくなるが、その時はインセンティブ報酬がかなりの額になっているという構想である。

気になる230人の退職時の年収だが、野澤氏によると「中央値は1000万程度」だという(野澤氏の発言はITmediaビシネスオンラインによる)。

え、そんなに少ないのだろうか。3年前(2018年)のYouTubeだが、匿名の電通社員によるインタビューでは、1年目400万円、2年目500万円、3年目600万円弱、5~6年目600万円後半、9~10年目1200万円。部長になっても1600万円程度で2000万円もらっている部長はいないと話している(いずれもボーナス・残業代含む)。天下の電通にしては意外に少ないという印象だ。応募230人の中央値は3年前では1200万円~1500万円という水準だったのではないだろうか。この3年ほどで年収は20~30%減っていると考えていいようだ。高橋まつりさんの過労自死(2015年12月25日)がその後労災認定されて、業務改善命令が出たことで残業代減少が影響しているようだ。

電通はこのLSP個人事業主化の前にも、2013年に62人、2015年に104人、2016年に120人が早期退職している。勤続30年で電通の退職金は約3000万円。早期割増退職金は基本給の5年分(60カ月)と言われる。55歳で退職なら最低76万×60=4560万円が退職金に加えてさらに支払われている。今回のLSPでは割増退職金の代わりに10年間をスキルアップ期間として固定給を保証するという仕組みに代えたということだ。早期退職募集が連続して社のイメージダウンが避けられないために、今回のLSPが考案されたと推測される。これなら安倍政権以来言われている多様な働き方改革にも合致するし、「電通らしさ」も演出できるということなのだろう。

9月21日の毎日新聞の記事はそのフォローというか、個人事業主となって充実した生活を送る長男を持つシングルマザーの大谷さんをレポートした。「タイアップじゃないだろうな?」の疑惑があっても不思議ではないくらい希望の溢れた記事だ。

しかしこのLSPは電通のように退職前の年収がかなりのレベルでないと実施は難しいだろう。給料が半分になっても生活のクオリティがそこそこ維持できる企業というのは滅多にない。

「今回のLSPは体のいいリストラであることに変わりはない」という声は少なくない。電通の人事政策について「広告代理店からSNSをベースにしたソリューションカンパニーへの脱皮を図るのに50歳以上の社員ではクライアントとの対応はもう無理。話が通じないしもう哀れなオジサンそのもの。40歳台でも難しい社員が少なくない。こういう社員は『それぞれ』の道を歩んでほしいということでしょう。残業をしないで夕方5時には退社するいわゆる窓際族が2割はいるのではないか」と語る業界関係者もいる。

東京オリンピック2020ではそのブザマな開会式や中抜き疑惑で一気にイメージダウンした電通だが、2015年12月25日に過労自死した女性社員以来なんとも悪玉のイメージが定着している。海風をさえぎって新橋あたりの温度上昇の原因になっているという汐留本社ビルを売却したことで心機一転、ソリューションカンパニーとして、難題が山積みしたアフター・コロナ日本の旗降役になってほしいものだが、そんなことより自社の体制立て直しが先決のようだ。LSPがその一助になるか注目である。

 

 

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