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まるで特攻ゼロ戦を思わせる失笑の「ファッション未来研究会」

Nov 26, 2021.三浦彰Tokyo, JP
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「これからのファッションを考える研究会 〜ファッション未来研究会〜」を新設した経済産業省

経済産業省が「これからのファッションを考える研究会 〜ファッション未来研究会〜」を新設した。11月18日に第1回会議、11月22日に第2回会議を開き、12月16日までに計5回の会議を行い、今年度中に報告書を策定し、今後のファッション政策に反映させるという。

この研究会の委員は26人で、座長は京都工芸繊維大学の水野大二郎特任教授、副座長はgumi-gumiの軍地彩弓代表とローランド・ベルガーの福田稔パートナーが務めている。ファッションデザイナーのコシノヒロコ、CFCL代表兼クリエイティブディレクターの高橋悠介、ヨウジヤマモトの辺見芳弘取締役、LVMHジャパンのノルベール・ルレ社長、クミコムの松下久美代表、「WWD JAPAN」の向千鶴編集統括兼サステナビリティ・ディレクターらが委員に就任している。

経済産業省でも「ファッション」という言葉が大手を振って使用されるようになっているのには隔世の観がある。少なくとも1980年代には行政の世界では、「ファッション」という言葉は使用できず繊維・アパレル産業に置きかえられたと業界人が苦笑していたのを思い出す。

その経済産業省商務・サービスグループファッション政策室による同研究会設置の趣旨にはこう書かれている。「ファッションとは、単に身体保護等の機能としての衣服の議論に留まらず、独自の文化や価値観、人の創造性を表す媒体でもあり、人口減少及び経済社会のデジタル化が進む我が国における海外需要戦略の中でも、最も重視される領域の一つである。(中略)世界に目を転じてみれば、(中略)様々なファッションの『未来』の兆しが出てきている。(中略)これからの我が国のファッション領域における創造性の発揮への支援、更なる海外需要獲得の実現など、持続的な価値創造のために必要な方策について検討することにする」。

これを読んで、失笑しない人は幸いである。「ファッション」という言葉はたしかに定義が難しい。「ファッションとアパレルってどこが違うんですか?」「Aブランドはアパレルで、Bブランドはファッションなんですか?」という質問をよく受けるが、通常使われているファッションというのは簡単に言えば、ライフスタイルのことに過ぎない。

経産省で言うところの「ファッション」は、なんとなくパリコレクションに代表されるデザイナービジネスのことのように受けとれる。なぜ日本のデザイナービジネスは、パリコレやミラノコレに登場しているブランドのような巨大なビジネスを生み出さないのか?なぜ東京の若手デザイナーのビジネスは大きくならないのか?というような意識が底流にある。「日本独自の創造性を発揮し、ファッションの『未来』づくりをリードしていくかが、我が国経済社会の持続的成長を検討する上で重要である」(同趣旨書)。

失笑どころか!呆れてしまう。日の丸の鉢巻きを飛行帽に巻いて米国戦艦に突っ込むゼロ戦みたいなものである。

「ファッション好き」というのは、そのキャップが中国製なのかベトナム製なのか気にしないどころか、そのデザイナーがスウェーデン人かドミニカ人なのかも気にしないだろう。要するに自分のライフスタイルにそのキャップがフィットしたに過ぎないのである。その「ファッション」に愛国主義がにじむのであるから、これは笑うしかない。消費者から見れば、「ファッション」というのはセンスやデザインのことにすぎないのである。それが一国の産業構造改革の中から生み出されるはずがないのである。こんな当たり前のことが分からないのだろうか。

特に各国のファッション・ウィークを比べて、ファッション・オリンピックのように「勝った!負けた!」と考えているとしたらそれはファッションが本質的に「国境なきもの」であることへの無謀な挑戦である。馬鹿も休み休み言って欲しい。

2005年に東京コレクションがJFWコレクションへ名称変更し発信力強化を図った際に、経産省のファッション政策の幹部が「東京ファッションウィークの開催をロンドンコレクションの前に持ってくればバイヤーの予算もまだあるからもっと東京のデザイナーのビジネスは大きくなる」と本気で語っていたのを思い出す。

これだけ情報がデジタルで行き来う時代に、日本の「ファッション」が世界をリードするようになるということに意味はない。「我が国のすぐれた繊維産地のポテンシャル、デジタル技術やバイオ技術は、世界最高水準と言っても過言ではない」(同趣旨書)のだったら、それを世界中のデザイナーやアパレル企業に活用してもらえばよいだけの話である。

かつてイタリアのある音楽大学の教授が書いた著作を読んだことがある。「我々の仕事は真に才能のある若者が我が校に入学するのをひらすら待つことである。そしてその後その若者がすくすくと成長するのを控え目なアドバイスで見守るだけ。ただそれだけ。才能なんてものは育てるものではないのだ。すでにあるものだから」。この言葉を経産省には送りたい。「お上」の指導や投資で開花するような才能は萎むのも早いはずだ。

そんなことよりもっと世界最高水準だという繊維産地のポテンシャル、デジタル技術、バイオ技術に投資したらどうなのだろう。あるいは1980年代にスタートし、その後進展が見られない自動縫製システム開発など、日本のアパレル・繊維分野にはまだまだ投資すべき課題が多いはずである。「ファッション」などという迷路で税金を無駄遣いしないでいただきたい。

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