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「ミュグレー H&M 」は「貧すれば鈍す」コラボなのか?

Mar 3, 2023.三浦彰Tokyo,JP
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「貧すれば鈍する」という日本の諺があるが、どうもスウェーデンにもこの諺は存在するらしい。スウェーデンのファストファッションブランド「H&M(エイチ・アンド・エム へネス・アンド・マウリッツ)」は、2023年春夏コレクションにおいて、「ミュグレー(Mugler)」ブランドとコラボレーションし限定店舗で販売すると2月22日に発表した。

「ミュグレー」と聞いて反応するのは、1980年代の「ボディコン」(ボディ・コンシャス)旋風を実際に体現しているジャーナリストとファッション・マニアと呼ばれる一部の消費者だけだろう。当時20歳台だとして、すでにそうした人々はもう60歳台になっているはずである。私もその一人で、ブランドの創始者であるティエリー・ミュグレー(1945年12月21日~2022年1月23日)にインタビューしたこともある。Wikipediaを参照してもらえば分かるが、多彩な才能を持った男で、プロのダンサーであり、プロのカメラマンでもあった。昨2022年1月23日に死去した時に、その「伝説」の一端が報じられたこともあって、穿っていえば、たぶんその「余波」「余禄」に預かろうとしたのが今回の「H&M」のコラボなのではないか。日本と違って、「ミュグレー」ブランドが販売されているヨーロッパではちょっとは響くのかもしれないが、一部のファッション・マニアの間だけではないのだろうか。

余談だが、昨年のミュグレー死去の時に、最近の彼のポートレートが公開されたのだが、1980年代には「貴公子」と呼ばれたティエリー・ミュグレーがすっかり変貌していて、オネエの悪徳警官みたいになっていたのにはビックリしたものだ。私のような者でもできれば見たくなかった。

1980年代、なんと高島屋が「ティエリー・ミュグレー」ブランドのライセンス契約をしていた。といっても、肩パッドやエポーレットスリーブなどを多用した「ミュグレー」が日本人の体型に合うはずもなく、日本のメーカーがうまく補正してその雰囲気を出していた。「ティエリー・ミュグレー」のメンズウェアの基本は「軍服」なのだが、それではどうにもならないので、シャープなイメージのスーツスタイルになっていて、郷ひろみが着用して、一時ちょっとしたブームになったものだった。

当時は、このミュグレーとともにボディコンの2大巨匠と言えば、クロード・モンタナ(1947年6月29日生まれ、75歳)だった。いや、モンタナの方が断然上だった。日本では最近フリージア・マクロス社に乗っ取られたラピーヌがライセンスを生産していた。モンタナは1990年から1992年にかけて老舗の「ランバン(LANVIN)」のデザイナーを務めたこともあった。1997年にモンタナ社は倒産していて、ブランドは存続していないようだから、いくらモンタナの「レジェンド」は凄くてもコラボは難しいのかもしれない。

その点、「ミュグレー」ブランドは、1997年には化粧品会社のクラランス社に買収され、さらにクラランス社は2019年にロレアルに売却している。クラランスは、2010年にニコラ・フォルミケッティをアーティスティック・ディレクターにしてプレタを再スタートした。現在はケイシー・カドワラダーがそのポジションについている。このケイシーは、スウェーデンを本拠にする「アクネスタジオ」出身のデザイナーだ。なるほどスウェーデンつながりということで、「H&M」と「ミュグレー」の不思議なコラボ関係の謎が解けてきた。

「H&M」のデザイナーコラボと言えば、その嚆矢になった2004年のカール・ラガーフェルドやなんと「コム デ ギャルソン」(2008年)を引っぱり出した画期的コラボなどを上げることができる。

しかし業績が低迷気味の最近では日本人デザイナー古田泰子が創始した「トーガ(TOGA)」と2021年秋冬でコラボしている。まさかコラボ料をケチっているとは思えないから、こういうマニア向けのコラボ戦略を最近はメインに考えているのだろうか。それとも、もう大半のデザイナーとはコラボやり尽くしてしまったということなのだろうか。
コピー問題を多く抱えるファストファッションのコラボは「我々はこうしてクリエイティブなデザイナーともコラボできるちゃんとした存在」というアリバイ証明という側面もある。

しかしそろそろ違う方向性を考えてはどうなのだろうか。サステナブルでない大量販売大量ゴミ発生を批判されているのだから、サステナブルな方向性を打ち出しているデザイナーとのコラボとか、サステナブル素材のメーカーとのコラボとか、いくらでも方法はありそうに思うのだが。クリエイティブなファッションデザイナーとのコラボに執着する方針が時代遅れなのではないか。そもそももう20年以上も続いている「コラボ」というマーケティング手法もそろそろ限界に達しているように思えるのだが。

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