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なぜ「エルメス」は今ごろ表参道に路面店を出したのか?

Mar 1, 2021.三浦彰Tokyo, JP
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©Nacása & Partners Inc.

「エルメス(Hermes)」表参道店が2月28日にオープンした。日本で「エルメス」の路面店がオープンするのは、2001年の銀座店以来実に20年ぶりのことだ。場所は渋谷区神宮前5-7-20で、三陽商会の「ポール・スチュアート(Paul Stuart)」があった場所。ビルの土台部分が石垣になった「石垣ビル」として有名な神宮前太田ビルの1階と2階(約148坪)である。

コロナ禍でこの1年間ラグジュアリーブランドの店舗オープンはほとんどない状況だったから、フランス大使を招いたオープニングセレモニーはなかなかの盛り上がりだった。

「エルメス」が表参道・青山地区に路面店がないのは、日本のファッション業界の七不思議のひとつであった。ライバルと目される「ディオール(Dior)」「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」「シャネル (Chanel)」「グッチ(Gucci)」「サンローラン(Saint Laurent)」などのファッション&レザーグッズを手がけるラグジュアリーブランドのビッグが軒を連ねている表参道、そして「プラダ(Prada)」が「氷山ビル」を構える南青山(御幸通り)になぜ「エルメス」の路面店がないのか、これはたしかに謎と言ってもよい。

ジュエリーカテゴリーに目を転ずると「カルティエ(Cartier)」は一度南青山(御幸通り)に出店したがあえなく撤退。「ブルガリ(BVLGARI)」は「シャネル」と同じ表参道のビルに出店したがこれも撤退。「ティファニー (Tiffany)」は何度となく出店が噂されていたが、これも未だに出店はしていない。ジュエリー分野のラグジュアリーブランドと表参道・青山地区というのは、親和性に乏しいので、3大ブランドがこの地区にないというのはまあなんとなく分からないではない。しかし、「エルメス」の店がないのはやはり分からない。

銀座に比べると、表参道・青山の坪効率は3分の1と言われている。ファッションの中で最も利益率が高いと言われるラグジュアリーブランドにとってすらこの表参道・青山というのは利益を出すのが至難の場所と言われている。もちろん「エルメス」が出店すれば、今回の488㎡(148坪)なら軽く年商20億円に届くだろうし、月坪家賃もせいぜい10万円でトータル月家賃は1480万円、年間で1億7760万円。これで黒字は「エルメス」なら朝飯前だろう。「エルメス」にとって重要なのはブランドにとって、「顔」になるようなプレステージの高い街と立地である。今回の神宮前太田ビルが「エルメス」にとって、その条件を満たすのかどうか。

この石垣ビルに対しては、「自然採光ができず、天高がないので穴蔵のようで圧迫感がある」という意見がある一方で、「石垣はむしろユニークな外観ということで、うまくファサードを作れば、『和』のベースの上に『エルメス』のDNAを移植する形になり面白い物件」という意見もあり、結局この時期だからいい物件が手に出来たという経営判断になったのではないか。「エルメス」は、銀座に続く「顔」になるような路面店をオープンしたかった。新宿、渋谷は、街の環境として路面店は難しいという判断があるはずで、良い物件を表参道・青山地区で狙い続けていたようだ。ここに来て三陽商会の業績不振による「ポール・スチュアート」表参道店の撤退。これこそ「エルメス」が待ち望んだ物件だったようだ。

この表参道店は全国29店舗目になるが、全国50店舗体制の「ルイ・ヴィトン」「グッチ」は日本で年商1000億円体制にあるとされるが、店舗数がその60%の「エルメス」は、恐らく年商800億円体制にあると思われるが、1店あたりの売り上げ効率の高さがうかがえる。また今回のコロナパンデミックの影響が最も少なかったラグジュアリーブランドは「エルメス」だが、これは2008年のリーマン・ショックの時と同様である。本気を出せば、「エルメス」は売り上げナンバーワンになるわけだが、そんなことには興味はないし、「キング・オブ・ラグジュアリー」の称号がもっとも相応しい存在と自他ともに認めているのだ。

また2月14日に、西武渋谷B館にある「エルメス」が閉店になった。立て替えに伴う閉店だと思われるが、エルメスジャパンに問い合わせると「今回の表参道店オープンと渋谷西武店との関連性はございません」という回答があった。まあ渋谷には東急本店に「エルメス」ブティックがあるわけで、渋谷西武店がなくなっても困るということはないだろうが、結果的に今回の表参道店オープンが渋谷西武店の売り上げがなくなるのを十分カバーすることになるのだから経営的には恩の字だろう。

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