二之部守(以下二之部):まず、JFRグループの戦略に合わせて大丸松坂屋カードの役割を見直しました。これまで特典や機能のマイナーな変更は行ってきましたが、カードの役割やポイントプログラムを大きく見直したことはありませんでした。JFRグループは、「パルコ(PARCO)」が完全子会社として加わり、あるいは「ギンザ・シックス(GINZA SIX)」のような新しい業態が誕生するなど、グループ全体のビジネスモデルが変わってきたことも背景にあります。
それから、百貨店の売り場には若い世代にもご来店いただいていますが、将来の年齢構成を考え、こうした若い層を獲得していくことも狙いでした。その一番わかりやすい施策がQIRA(キラ)ポイントの導入です。ポイントプログラムを変更して、たくさんのポイントをお付けしています。入会時にポイントをお付けし、さらに利用時にはダブルでポイントをお付けしています。こうしたポイントの特典で若いお客さまを引き付けたいと思っています。
SVT:リニューアルから5カ月ほどですが、手応えはいかがでしょうか。
二之部:カードのデザインを一新し、新しいポイントプログラムを導入したことで、会員の活性化につながりました。カード会員の獲得にはこれまでも非常に力を入れてきましたので、毎年多くのお客さまを獲得しました。ただ、入会はしたもののカードを利用されないお客さまが多かったのも事実です。こうした状況を解消したいという思いもありましたので、利用頻度が向上したことはお客さまからのポジティブな反応だと感じます。
そして、新たに導入したポイントプログラムは、Amazonギフト券やTポイント、楽天ポイントなどにも交換ができますし、特に既存のお客さまにとってはこれまでは大丸・松坂屋のポイントだけが貯まる仕組みでしたが、さらにQIRAポイントも貯まるわけですから一定の評価をいただけたのではないかと思います。
一方で、大丸松坂屋カードのリニューアルは2回目と3回目の緊急事態宣言に重なり、タイミングとして良くはありませんでした。そうしたなかでも、ツイッターやインスタグラム、フェイスブックの公式アカウントを同時に立ち上げ、オンラインに力を入れることで認知を広げてきました。「パルコ」や百貨店のようにオープンすればお客さまがたくさん来てくださるわけではありませんので、1年、2年かけてしっかりとアピールしていくことが重要だと思っています。
SVT:CRM戦略が重要性を増してきます。カード顧客とデジタル顧客の融合についてはいかがでしょうか。
二之部:これは当社だけではなくて、各社が取り組んでいる課題です。アプリ、ウェブサイト、SNSなど、お客さまとのタッチポイントをしっかりつくっていくことが重要です。お客さまのニーズの変化をしっかり理解し、デジタルでのコミュニケーションを行なっていくことがますます重要です。
新しくリニューアルした大丸松坂屋カードは、「ハウスカード」プラス「地域カード」だと思っています。大丸松坂屋のカードですから、ご来店いただくお客さまに百貨店で利用した際にメリットを感じていただく、これが「ハウスカード」の基本の役割です。その役割にプラスして、地域へのベネフィットを提供していく「地域カード」を目指します。例えば名古屋のお客さまには、紙のニュースレターを地域ごとに発行していますが、今後はデジタルでも地域の情報をしっかり届けていくつもりです。GPSの情報を使いクーポンをお配りして、そのまま購入もスマートフォンで決済いただくような、こういったことは全て実現したいと思っています。
SVT:ポイント以外のサービスとして、「心斎橋パルコ」に「QIRA(キラ)フィナンシャルラウンジ」を設けました。
二之部:『くらしの「あたらしい幸せ」を発明する』というビジョンを当グループは掲げていますので、お客さまの将来、あるいは日々の暮らしをどのように充実させていくかが重要です。そして、お客さまの不安をいかになくしていくかというのもテーマです。そういった観点で保険や金融サービス、相続といったことも含めて、問題解決のための品揃えをしっかり対面でお客さまにご案内することを考えていました。それが「QIRA(キラ)フィナンシャルラウンジ」です。当社の強みは、リアルの世界です。プライバシーが保たれるリアルな環境で、スキルを持った人材にご相談ができる場をしっかりと整えていきたいと思っています。
SVT:クレジットカードの役割や存在意義は今後どのように変化するとみていますか。
二之部:変わる部分と変わらない部分があると思っています。信用力やステータスは間違いなく変わりません。個人的な意見ですが、決済のインターフェースは今後生体認証に近づいていくのではないかと思います。オンラインショッピングでもクリックするだけで支払いが済んでしまいますが、それがリアルの世界でより進んで行くのだと思います。プラスチックのカードがどんどんスマートフォンの中に入っていきますし、生体認証もありますから、決済のシーンが目に見えなくなっていくわけです。支払ったことが消費者の意識の中からなくなっていくような感覚です。そうすると先ほどのブランドやステータスといったエモーショナルな部分の重要性は変わらないのではないでしょうか。
それから、もう一つ変わらないと思うのはやはりポイントです。クレジットカードを使う消費者の大きなインセンティブは、ポイントが貯まることです。プリペイドカードやデビットカードの即時払いよりも、クレジットカードの方がポイントを付けられる収益構造になっていますので、クレジットカードは10年後でも根強く使われていくだろうと思います。ただ、例えばコンビニでコーヒーを100円で買う時は、Suicaなどで支払うことが多く、逆に1万円や2万円のものをSuicaで支払うことはほとんどありません。こういったように、場所や金額によって支払手段は変わっていくと思います。
SVT:では、JFRカードは今後どのような価値を提供していきますか。
二之部:当グループでは、ウェルビーイングやウェルネスという言葉をよく使っていますが、例えば御徒町にある「ビーノ(BINO)」にはクリニックが6、7軒入っています。兵庫県の「大丸」須磨店ではワンフロアに医療モールを誘致し、グループとして取り組んでいます。JFRカードのサービスとして、こうした場所でも特典を受けることができますが、先ほどお話しした「ハウスカード」プラス「地域カード」に、健康というテーマを加えていくことが私の考えです。JFRカードのこうした新しい価値を一つずつ積み上げていき、既存のお客さまとこれからのお客さまにしっかり伝えていきたいと思います。