マルチラグジュアリーブランド企業であるLVMHでデザイナー交代が相次いでいる。まず4月23日に「ベルルッティ(Berluti)」のアーティスティック・ディレクター(AD)だったクリス・ヴァン・アッシュ(Kris Van Assche)が同職を退任したと自身のインスタグラムで明らかにした。4月8日の上海での2021-22年秋冬「ベルルッティ」コレクションが最後の仕事になった。アッシュは2012年から「ディオール・オム(Dior Homme)」のADに就任していた。しかし「ルイ・ヴィトン」のメンズのADにヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)が就任したことで、従来同職にあったキム・ジョーンズ(Kim Jones)が「ディオール・オム」のADに転身したことで、アッシュは玉突き的に押し出され「ベルルッティ」のADに転身したように私には見える。まあ放出するには惜しい才能だから、グループ内で活躍してもらおうということで「ベルルッティ」のADを3年間務めた。いわゆる傭兵タイプではないデザイナーとしてのオリジナリティを十分に持っているアッシュだけに、おそらく3年間の契約満了をもって退任ということになったのではないだろうか。「ベルルッティ」はLVMHグループの総帥であるベルナール・アルノー(Bernard Arnault)の長男であるアントワーヌ・アルノー(Antoine Arnault)がCEOを務めるブランドではあるが、そもそもの出自はイタリアの高級靴であり、そのメンズウェアを中心にしたADを務めるのにアッシュにふさわしかったかどうかは疑問が残るところではあった。アッシュは9年及ぶLVMHでのクリエーション生活に終止符を打つ。アッシュの後任は未定である。
4月28日にはLVMH傘下のブランドである「ケンゾー(KENZO)」のクリエイティブディレクター(CD)であるフェリペ・オリヴェイラ・バティスタ(Felipe Oliveira Baptista)が2年間の契約満了に伴い6月30日に退任する。バティスタはフランスの有名ファッションコンテストであるイエール国際コンクール、アンダムファッションコンテストの両方でグランプリを獲得した俊英デザイナーで、2010年に「ラコステ」のCD就任し、2014年には自身のブランド活動を休止して、「ラコステ(Lacoste)」を成功に導いた。これが評価され2019年にLVMH傘下の「ケンゾー」のCDに就任。バティスタの前職は「オープニング セレモニー(Opening Ceremony)」の2人組デザイナーのキャロル・リム(Carol Lim)とウンベルト・レオン(Humberto Leon)だった。「オープニングセレモニー」は2020年にイタリアのニューガーズグループに売却され、セレクトショップとしては存続せずブランドとして存続する方針が取られた。この2人組からバティスタへの「ケンゾー」のデザイナー交代は「ケンゾー」ブランドの営業不振によるものであったようだが、新進俊英デザイナーのオリヴェイラに変わっても十分な成果をあげられなかったようだ。オリヴェイラの後任はまだ決まっていないがLVMH参加ブランドの中では、いわゆる「ファッション」的色彩が強いブランドだけに、次のデザイナー選びがブランドの存続を決めるような重大事になるのではないだろうか。