1週間前にクールジャパン機構の赤字が膨らんで、その統廃合を財務省が検討しているという報道があった。私がこのseventietwo.comで書いた記事に対しても「こういうことはそもそも『お上』のやることではない」(私の友人の元地方公務員)などの意見があった。要するに税金が投入されているにもかかわらず、こういう官民ファンドは公正・公平という公共事業の大原則がなかなか守られないというのだ。
そうした意味でクールジャパン機構の投資先で私が最も注目したのは「MM. LaFleur」だ。日本語の読み方は「エムエムラフルアー」のようだ。CEOであるラフルアー宮澤沙羅氏とクリエイティブオフィサーの中村美也子が2013年に設立したD2C(Direct to Consumerの略。Eコマースの一種で基本的に自社サイトをベースにしたビジネスで消費者とのダイレクトなつながりが特徴)ブランドだ。日本のテキスタイルを使ったシンプルなデザインが特徴だ。靴やベルト、ジュエリーを含むアクセサリーで75〜495USドルの価格帯で働く女性がターゲット。すでにクールジャパン機構が20億円(2020年9月には3億円の追加融資決定)の投資を決定した時点(2019年10月)で、自社サイトの他に全米8カ所の実店舗で販売されていた。
誤解を恐れずに言えば生地が日本製であるのを除けば、アメリカあたりではどこにでもありそうなブランドである。日本を代表する「クール」なファッションブランドにはとても思えない。それにすでに全米8カ所に実店舗を構えていたのだ。設立6年でビジネスが軌道に乗っているD2Cブランドではないのか。このブランドに20億円を投資する意味はどこにあったのだろう?このブランドが20億円の投資で、今後さらに大きく成長するというのだろうか。
そもそも、この時点でどれくらいの年商があって、何人の社員がいて、どれくらいの利益を出しているのかが全く示されていないのも不可解だ。さらに、この20億円の出資がどんな形で行われたのかもその後発表されていないようだ。
その20億円は、ただの貸し付けなのか?第三者割当増資の形でクールジャパン機構が同社の株式を保有したのか?新会社をジョイントベンチャーの形で設立したのか?などの説明はないようだ。
それに、この会社の登記はどうなっているのか?おそらくアメリカの法人だと思うが、そういう法人に日本の税金20億円を投資してもいいのか?
さらにこのラフルアー宮澤沙羅CEOを調べてみて驚いた。Wikipediaによれば、ラフルアー宮澤沙羅CEOは、元駐マレーシア米国大使のクリストファー・J・ラフルアー氏と宮澤恵子氏の娘。宮澤恵子氏は1991年から1993年まで内閣総理大臣を務めた故宮澤喜一氏の娘である。つまりラフルアー宮澤沙羅CEOは宮澤喜一元首相の孫娘なのである。クールジャパン機構の出資先のCEOが元首相の孫娘であっても、それは偶然に過ぎないのだろうか?「出資に関してかなりの『口きき』があった」という噂は前回の記事で書いた。クールジャパン機構の元社外取締役だった夏野剛KADOKAWA社長は「政治的な思惑が入ることもあったのは事実」とABEMA TVで発言していた。このMM.ラフルアーがその例にあたるのかどうか。宮澤CEOが元首相の孫娘などの情報はマスコミの記事などでは全く紹介されていない。発表資料にあったなら当然紹介されていただろう。Wikipediaの「宮澤喜一」の項目には、「宮澤家の閨閥は、系図でもわかるように華麗としかいいようがない。系図には約90の人物が登場するが、その中から宰相になった者が5人、国会議員となった者が20人、はては麻生家を通じて皇室まで連なる一大閨閥を築き上げている」(作家の神一行による脚注)。
その華麗なる一族にクールジャパン機構を通じて20億円の出資はいかにも馬鹿げた税金の無駄使いに思えるのは私だけだろうか。
せめて、上記の疑問に答え、2019年10月に発表された20億円の投資がどう使われ、かつ「MM.ラフルアー」が現在どういう発展を遂げているのかクールジャパン機構には是非公開して欲しいものである。公正・公平で十分な透明性を持った税金の使用が政治の大原則なのだから。