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「キノコ・レザー」に見え隠れするエルメス、LVMH、ケリングの思惑!

Jan 21, 2022.三浦彰Tokyo,JP
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新素材を使用した「エルメス」のヴィクトリア ⒸHermès

 サステナブル素材として「キノコ・レザー」(英文では「マッシュルーム・レザー(Mashroom-Based Leather)」)が注目を集めている。キノコといっても、キノコそのものではなく、キノコの根に存在する繊維質の菌糸体(マイセリウム)からレザーにできる成分を抽出し、レザーにするというのが基本的な方法だ。

これに注目した新興企業がいくつかあるが、俄然注目を集めた要因は、トップ・オブ・ラグジュアリーの「エルメス(Hermes)」が「シルヴァニア」という素材を採用して、「ヴィクトリア」シリーズで今春商品化したことだろう。革市場でも、いわゆる「一番革」をほとんどせり落とすことで知られている「エルメス」がキノコ・レザーを認めたのである。

「シルヴァニア」は、「エルメス」とサンフランシスコのスタートアップ企業であるマイコワークス(MycoWorks)が共同開発した。菌糸体(マイセリウム)からレザーの基になる繊維を取り出すファイン・マイセリウム技術がポイントになるが、「エルメス」との5年にわたる共同作業からやっと陽の目を見たのが「シルヴァニア」だ。

「キノコ・レザー」の技術をもっているのはマイコワークスだけではない。カリフォルニア州エメリーヴィル(サンフランシスコ湾を挟んでサンフランシスコの対岸の市)を拠点にするボルトスレッズ(BOLT THREADS)が開発したキノコ・レザー「マイロ」を使って話題なのは、2022年春に発売される「アディダス(adidas)」の「スタンスミス マイロ」だ。前述の「エルメス」はバッグに用いられているが、これはスニーカーに使われている。バッグレザーでもシューズレザーでも、キノコ・レザーは対応できるのだ。この「マイロ」は「ルルレモン(LULULEMON)」「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」、ケリングとも戦略的なパートナーシップ契約を結んでいるという。

このことはさりげなく一般マスコミでも紹介されているが、デザイナーのステラ・マッカートニーは、ケリングと50%ずつ保有していたステラ マッカートニー社の株の50%をケリングから2018年に買い戻している。これにより2001年から続いていたケリングとは決別した。そして翌2019年にケリング最大のライバルであるLVMH(モエヘネシー ルイ・ヴィトン)グループとの新たなパートナーシップ契約を結んでいる。ケリングの投資と異なり今回はステラ本人が過半数株式を持つパートナーシップ契約だった。以後、ステラはLVMHのサステナビリティ活動のアドバイザーにもなっている。つまり、「ステラ マッカートニー」ブランドが「マイロ」とパートナーシップ契約を結んだということは、LVMHがキノコ・レザー「マイロ」を認めたということなのである。LVMH、ケリングのラグジュアリー業の2大グループが「マイロ」にかなり入れ込んでいる状況は、彼らの最大の稼ぎ頭であるハンドバッグに使用されるレザー(主にカーフ・スキン)の需給に対する長期的な不安があるのではないかと感じさせる。

キノコ・レザーの最大のメリットとしては、動物なら育成に数年かかるのに、数週間で製造可能である点だ。量的な不安がないと言っていい。ついでに言えば、家畜の呼吸によるに2酸化炭素排出の弊害も、キノコでは劇的にその量が減るし、動物の皮の加工に必要な環境に有害な化学薬品もキノコ・レザーならほとんど必要ない。いいことずくめなのだ。最大の課題は、動物の革が持っているなめらかな質感をどうやったら出せるかということだ。

「エルメス」がOKを出した「シルヴァニア」、そして「アディダス」がスニーカーに使用した「マイロ」が、消費者にどう受け入れられるか多いに注目だ。そして有望であるのが明らかになったキノコ・レザーをめぐるLVMHとケリングの動向も注視したい。思わぬ買収などのニュースが飛び込んでくる可能性もあるということだ。

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