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コロナ禍を乗り越え「ニコアンド」が中国で好調 アダストリアの北村嘉輝取締役が考える中国戦略とは

Feb 2, 2021.高村 学Tokyo, JP
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アダストリアの北村嘉輝取締役

アダストリアが手掛ける「ニコアンド(niko and ...)」が、中国で好調だ。2019年12月21日に中国・上海淮海路商圈にオープンしたグローバル旗艦店「ニコアンド上海」の開業時には連日3万人が来店し、昨年12月に上海・南京に出店した2号店のオープン初日には1万人以上が来店した。2021年2月期の第3四半期は、新型コロナウイルスの影響から順調に回復し、中国事業の売上高は前年同期比635%と大きく躍進した。上海1号店の売場面積は約3960平方メートルで、東京の旗艦店の約4倍の広さ。そのリアル店舗で、中国の人気ブランドとの限定コラボやKOLを起用したプロモーションなど、中国人のニーズを汲み取ったさまざまな仕掛けを実行している。中国本土でその陣頭指揮を執るのが、アダストリア取締役の北村嘉輝氏だ。「アジアを代表するグローバルブランドを目指す」と語る北村氏に、中国戦略について話を聞いた。

SEVENTIE TWO(以下、SVT):「ニコアンド」が中国に上陸して1年が過ぎました。手応えはどう感じていますか。 
北村嘉輝取締役(以下、北村):昨年の1月後半から3月まで、中国ではコロナ禍で街にほぼ誰も出歩いていない状態でしたが、その空白の2カ月があったにも関わらず1年間の目標数値を達成しました。僕たちが中国でやってきたこの1年間がしっかり形になったんだなと感じていますね。

SVT:「ニコアンド上海」はリアル店舗への集客力が強みのひとつですね。
北村:そうですね。ちょうど1月5日に開催した1号店のアニバーサリーイベントでも、4百人のKOLを含めて1日で約4千人のお客さまが来店してくれました。

SVT:Eコマースが主流の中国市場でリアル店鋪が大きな成果を出しています。
北村:中国市場では、消費の30パーセント以上はEコマースによるものと言われていますが、そういった状況のなかでリアル店舗を出店する意味が本当に変わってきていると感じています。リアル店舗は手間暇も掛かりますし運営などもすごく大変ですが、リアル店舗をやっていかない限り中国で僕たちに勝ち目はないですし、生き残れないと思っています。実は、中国のリアル店鋪は日本以上に進化しているからです。

例えば、「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」や「グッチ(Gucci)」「シャネル(Chanel)」といった欧州ブランドの需要は非常に伸びていますが、リアル店舗でも商品が売れています。昨年10月の国慶節には、海外旅行ができなかったため朝から買い物客が店前に並んでいました。中国は生産国なので、紛い物も多いですし、偽物か本物かはネットでは見分けがつきにくいですよね。ですから、リアルのお店で商品を買うことがイコール本物の証明であり、またステータスにもなっています。そういった意味で、リアル店鋪の立ち位置はより重要になっています。それは、僕らのブランドにとっても同様で、ローカルで常に評価され続けるリアル店鋪でなければいけないと思っています。

SVT:では、中国でEコマースはどのような展開をしていますか。
北村:2020年6月にテストとして「Tモール」に出店し、9月から本格的にオープンしました。お客さまはネットで買うことがもはや当たり前で、あらゆるデジタルツールに慣れています。「Alipay」か「WeChatペイ」を使い、支払いは全て携帯電話です。当然、見るものはネット、買うものは「Tモール」か「タオバオ」で、「Uber EATS」のような「ワイマイ」という料理の出前もありますし、携帯電話は生活から切っても切り離せないですね。

ですから、Eコマースはさらに強化していきます。そのためには組織と仕組みをもっと強固にしていかないといけない。物流のインフラやEコマースのシステムを強くしていかない限りは、他店舗はできないなというのが正直なところで、今年はここを一気に強くしていきます。物流チームもEコマースチームも日本から連れていき、中国に駐在します。

SVT:「ダブルイレブン(双11)」には参加しますか。
北村:はい。今年はいろいろなことをテストしていこうと思っていますから、その一貫として参加するつもりです。「ダブルイレブン」のために商品を作ることはありませんが、仕掛けはいろいろと考えています。KOLを起用してみたり、オフ率をどれくらいにすれば効果があるかなど検証していくつもりです。ただ、逆に難しさもあると思っています。どこも「ダブルイレブン」に寄せていきますから埋もれてしまうし、値下げをしないといけない縛りがありますから、利益を取れる仕組みを作っていかないといけない。

SVT:「ダブルイレブン」は1年分の売り上げを1日で稼げてしまうポテンシャルがありますね
北村:それは魅力ですよね。すごいなと思うのが、中国でツートップのKOLがいるのですが、僕たちも昨年春と7月に彼女たちとライブコマースをやった時は、5分間でTシャツが3万点も売れましたからね。「ダブルイレブン」でも二人のチャンネルを観ていたんですけど、視聴者数が1億を超えているんですよ。日本の人口とほとんど同数なんですよ(笑)。圧倒的人口の差というのが一番大きいですよね。フォロワー数も、日本よりも丸や桁が1個違います。日本のKOLのフォロワー数はせいぜい何百万人ですが、彼らはやっぱり何千万人と持っているので本当に桁違いですね。

SVT:中国でのプロモーションにKOLを起用していますね。
北村:そうですね。今はどちらかというと、リアル店舗でイベントを開催して、コラボ商品を発売しています。「ニコアンド 45日ショップ」という形で売り場をよく変えていくので、その時にコラボを実施し、KOLに店舗に来てもらい情報を発信してもらっています。今回は、「ニューバランス(New Balance)」とそうした取り組みをしました。

僕もイベントに招待されることが多いのですが、そうした際にKOLを紹介されて、「今度、僕らもこういうイベントをするのから来てよ」と言うと、何人か連れてきてくれて。そのコミュニティがどんどん広がっていくと、そんなにお金をかけずにKOLは使えますし、その方がリアリティがありますよね。2号店のオープンの時には、KOLが4百人も来てくれましたしね。

SVT:3号店の出店や多店舗展開の計画はありますか。
北村:考えています。僕らは旗艦店戦略という形で考えているので、旗艦店を出してその周りにスタンダードな店舗を出すという戦略を立てています。それを飛び地で出すのではなく、まず上海から攻めて路面店を二つ出し、次はモールに出店を予定しています。します。

「ユニクロ(UNIQLO)」もそうですよね。まず1級都市を攻めていって、都心部をしっかりと取って、そこで認知とブランディングを上げて、次に2級都市に行く。「ユニクロ」の場合、さらにその次は3級都市に出店していく流れですね。つまり、中国にはそこまで奥行きがまだあるということですね。

SVT:1級都市から郊外にということですね。
北村:ただ、多店舗展開はせずに、モールに2、3店舗しか出さない。お店をいっぱい出し過ぎると失敗しますから。好立地、好条件のモールにしっかり出ていくつもりです。一昨年にオープンした時は、70社ぐらいのデベロッパーさんからお声がけを頂いたんですけど、全部断って自分たちで良い場所を選ぶという形を取っています。

SVT:中国人のニーズはどう汲み取っていますか。
北村:僕も出張では何回も中国に行きましたけど、やっぱり住まないと分からないですよね。2019年から上海に駐在するようになって、実際に現地のローカルのお客さまの動向を見たり、どういうものが流行っているのかを体感しています。他のブランドや街を歩いている人を見たりして、こういうものが必要で、ここは日本と違うなということを、何となく感覚で掴んでいくことがすごく重要だと思います。

SVT:中国へ進出する際、単身ではなく日本から精鋭メンバーを引き連れて行かれたそうですね。
北村:それぞれのプロフェッショナルを5名、自分で選抜して連れて行きました。まず、僕が総指揮官の役割です。そして、営業に特化したスタッフですね。彼はもともと香港に駐在していました。もうひとりは店舗開発やデベロッパー担当者ですね、彼とは15年以上の付き合いになります。「ニコアンド」の世界観を作るために、アダストリアで1番と言っていいほどのビジュアルマーチャンダイザーもメンバーに加えました。それから、中国に8年ほど駐在経験のあるマーケティング担当には、情報発信やコラボレーションなどを担当してもらっています。このメンバーで乗り込んでいったわけですが、1人だけではなかなか難しかったと思います。

SVT:選りすぐりのベストメンバーですね。
北村:本気度Maxです(笑)。絶対に成功させなくてはいけないですからね。それぐらいの気持ちでいました。

SVT:アダストリアが中国に初めて進出したのは約10年前です。売り上げも順調に伸びていきピーク時で20億円近くありました。
北村:店舗も約50店ありましたから。

SVT:それが2018年に一気に中国市場から撤退しました。
北村:過去の遺産は残さない方がいいという判断です。ただ単に日本のブランドを出店する、というレベルで終わっていましたから、事業をしているという感覚ではなかったです。中国でのニーズを的確にキャッチできていなかったところも、大きな反省点でした。

SVT:日本のアパレル企業が海外での出店を加速させていた当時は、現地のパートナーに任せるやり方が主流でしたね。
北村:「日本企業あるある」ですね。現地に駐在員を1人か2人配置して、お手軽な感じで運営していたところがほとんどだったと思います。僕らはそれまでのそういった過ちを一度清算して、本気で向こうで事業をするという考えにシフトしたことが大きかったですね。

SVT:全てを一旦ゼロにしてリスタートしたわけですね。
北村:売り上げが20億円あり、店鋪も50店もあると、黒字の店鋪だけでも残すというやり方はありました。ですが、やっぱり自分たちがやったことを全て否定しないと始まらない。名前だけは残しましたが、組織は事実上一度たたみました。そして、もう一回ゼロから立ち上げる。そうじゃないとやっぱり考え方は変わらないですし、中国のお客さまにとっても同じ会社がやっているんだなというイメージ付いてしまうので、そうではないんだという意思表明の意味合いが一番強かったです。

SVT:撤退した翌年すぐに再スタートしました。その決断は早かったですね。
北村:住んでみないとわからない感覚だと思いますが、中国は日本の数倍のスピードで物事が動いています。スピードがとても速い。遅れれば遅れるほど自分たちも遅れていきますし、考えるよりも行動するほうが早いかなというところですよね。日本に戻ってきたら、逆になにも変わっていないなと感じることもありますね。

SVT:アダストリアは接客コンテストを開催するなど、スタッフの育成やモチベーションの向上に積極的です。中国でのスタッフの育成についてはいかがですか。
北村:これは正直、難しいです。まず、考え方が根本的に違うので、そこを理解しないといけない。実際、昨年オープンした旗艦店のスタッフの半分以上は入れ替わりました。辞めていく理由を聞くと、当店の向かい隣にある日本ブランドの旗艦店は同じ給料で全く忙しくないのに、こちらは連日行列で忙しい。「だったら忙しくない店で働いたほうがいい」と言ってみんな辞めていきました。同じ給料だったら楽なほうがいいというのが、彼らの考え方なんですよね。ただ、普通に考えたら日本人の僕らも同じですよね。

であれば、そうやってどんどん転職していくのが当たり前の文化のなかで、この会社やブランドがどう成熟していくかという、しっかりとした未来のビジョンを見せてあげないといけない。頑張っているスタッフは良いポジションに就けて、評価してあげることも重要です。今はコロナの影響で昨年11月に一時帰国しましたが、リーダー研修や店長研修など、もう一回スタッフ教育に力を入れるつもりです。

SVT:中国では新型コロナウイルスが終息しているようです。今後の中国市場の展望についてはどのように捉えていますか
北村:上海での感染者はゼロですし、中国はほとんど落ち着いています。ただ意外と過敏でもあって、例えば僕が帰国する直前に河北省で感染者が50人ぐらい出たとなって大騒ぎになっていました。一方で、中国政府の強制力が非常に強いので感染が出てもすぐに収まってしまう。中国政府も感染を抑え込むやり方を熟知しているようなので、今後の中国市場は新型コロナウイルスの影響はほとんど受けないんじゃないかなと見ています。

SVT:世界に通用するブランドの定義についてはどう捉えていますか。
北村:アダストリアにはたくさんのブランドがありますが、全てのブランドが日本以外のマーケットで勝てるわけではありません。中国で受け入れられる、もしくは世界で通用するブランドというのは限られているとは思います。そう考えると、ブランドの価値がしっかり作られていて、お客さまに対してブランディングをちゃんと表現できるかどうかがすごく重要なんじゃないかと思います。僕らの場合で言うと、「ファッションライフスタイルブランド」として、どういうライフスタイルを提案するか、それを店という場所でどう具現化させて、お客さまにどう提案するのかということですね。それができているブランドが世界で通用するんだと思います。

SVT:ブランディングにさらに磨きをかけていくということですね。
北村:そうですね。僕らもまだまだだと思っているので、さらに磨きをかけていきます。今までは日本を中心にしていた「ニコアンド」が、グローバル市場にさらに進出するには、自分たちのアイデンティティをどれだけ表現できるかですね。そこを強くしていかないと差別化にはなりません。それから、僕らは当然「ニコアンド」だけを考えているわけではありません。「ニコアンド」以外のビジネスアイデアがたくさんありますし、ビジネスチャンスもたくさんありますよね。

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