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「+J」の大人気に切歯扼腕のオンワードHD

Nov 19, 2020.久米川一郎Tokyo, JP
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ファーストリテイリングの中核ブランドである「ユニクロ(UNIQLO)」は9年ぶりに人気コレクション「+J」を復活した。11月13日から「ユニクロ 」店舗とオンラインストアで発売しているが、大人気のようだ。「+J」は「ジル サンダー(Jil Sander)」ブランドの創業デザイナーであるジル・サンダー女史(1943年11月27日生まれの76歳)と「ユニクロ」が組んで2009年から2011年まで展開を行なっていた。上質な素材を用いて、デザイン性のあるシルエットが話題になり、「ユニクロ」にとっては大きな足跡を残すプロジェクトになったと言われている。

ブランド論的に言えば、自分のブランドを他社に売り渡したデザイナーが73歳にもなって、他社のプロジェクトに名前をクレジットして登場して、大成功するというのは稀有な例ということができるだろう。実際、こうした例は、「ディオール(Dior)」とLVMHを不祥事で追放され、「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」で復活したジョン・ガリアーノ(John Galliano)など数えるほどしかない。

ジル・サンダー社は、同社株の75%を保有していたジル・サンダー女史が1999年にプラダに売却し、その後2006年にイギリスの投資会社のチェンジ・キャピタルに1億2000万ドルで売却され、2008年には日本のオンワードホールディングスに2億4400万ドルで買収され現在に至っている。クリエイティブ・ディレクターは目まぐるしく代わっており、ジル・サンダー女史の後に2005年5月にラフ・シモンズ(Raf Simons)就任、2012年2月ジル・サンダー就任、2017年4月ルーシー&ルークメイヤー(Lucie&Luke Meier)夫妻就任で現在に至っている。

2009年に「+J」がスタートしたのに対抗したわけではあるまいが、オンワードホールディングス傘下のジル・サンダー社は「ジル サンダー」のエクステンショナルラインとして「ジル サンダーネイビー(Jil Sander Navy)」をスタートさせたが2019年春夏をもって終了している。これに代わってというわけではないが、メインコレクションを補完する「ジル サンダー+(Jil Sander +)」を2019-20年秋冬からスタートさせている。あきらかに「+J」を意識したネーミングに思われる。

実はジル・サンダー女史のジル・サンダーというのは通称である。本名はハイデマリー・イリーネ・サンダー(Heidemarie Jiline Sander)である。「ジル サンダー」ブランドを傘下におくオンワードホールディングスとしては、ジル・サンダー女史は通称ではなく、ハイデマリー・イリーネ・サンダーという本名を使うべきであると考えているのだろうし、今回の「+J」復活を、まさしく切歯扼腕(せっしやくわん)の思いで見ているだろう。「ジル・サンダー女史はプレス資料では本名を使用すべき」の内容証明ぐらいファーストリテイリングに送付しているかもしれない。

オンワードホールディングスにとっては、グローバルな総合ファッション企業として、ヨーロッパのラグジュアリーブランドを保有するのは絶対必要という判断から2008年に買収したジル・サンダー社だがなかなか利益貢献をしてくれない存在だ。国内での2020年2月期までに700店閉鎖、2021年2月期にも700店を閉め、合わせてこの2年で1400店も閉店して、従来の3000店体制はほぼ半分になるというような創業以来の危機の中で、その売却が検討課題になっている可能性は十分にありえる。このジル・サンダー社にとどまらず、総合アパレルの王者、オンワードホールディングスにとって、海外事業をどうしていくのかは、国内の店舗整理に次ぐ大きな課題になっていると言えよう。

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