繊研新聞は9月14日号で2021年春夏バイヤーズ賞レディス部門賞を受賞した全28ブランドを第1面で発表した。全国の百貨店バイヤーの推薦によって決定されるこの賞は2020年春夏ではコロナ禍によって中止され2年ぶりの実施だ。このバイヤーズ賞が公正を欠いているというような失礼千万な噂を耳にしたことがある。投票した百貨店バイヤーの指名と投票内容を公開せよというようなことも巷間語られているという。10月7日号で詳細が掲載されるというから、紙面の都合で投票内容まではともかく、投票した百貨店バイヤーは公開されるのだろう。
28ブランドを見てみたが、私が知らないブランドは2つだけだった。他の26ブランドはよく知っているブランドばかりだ。別段私がファッション&アパレルのブランドに詳しいわけではない。最近は取材をほとんどしなくなったし、売り場を見て歩くというようなこともめっきり減った。その私が28ブランド中26ブランドはよく知っているのだから、いかに百貨店というのは「変わらない!」「変われない!」存在だということの逆証明になっているのではないだろうか。さすがにオンワードホールディングス、ワールド、TSIホールディングス、三陽商会などの大手アパレルメーカーのブランドは受賞していないのが救いではある。少なくとも半分いや三分の一は、「え、そのブランド何なの?」というようにならないと、百貨店というのは確実に死滅するのではないか。企業の寿命は30年とよく言われるが、ファッションのブランドの命は30年以下であろう。だから次の主力ブランドを日夜模索するのがファッション&アパレル企業の最大の仕事なのだ。そうしたことを考えて生み出されたのがラグジュアリーブランドという怪物なのであるが、それを論ずる場ではないのでそれは別の機会に譲る。
百貨店と納入業者の関係は、いわゆる掛率ビジネスである。これが大きな「癌」になっている。売れなくなったら、「出て行ってくれ!!」の退店勧告ではなくて、「掛率を下げさせていただきます!」なのである。売り上げが減っても、掛率を下げれば百貨店にとっては粗利益は変わらないのである。これが納入業者との癒着を生んでしまって、売り場全体が停滞してしまう原因になっているのだ。これが家賃ビジネスのショッピングセンターなら、契約さえしていれば売り上げ不振に対してはいつでも退店勧告してブランドの入れ替えを行うことができる。もう30年も低迷する百貨店に求められているのは実はこうした新陳代謝できる契約システムの構築なのだ。
百貨店改革の話はこれくらいにして、私が繊研2021年春夏バイヤーズ賞レディス部門で知らなかった2つのブランドを紹介しておこう。この2つはかなり面白い存在である。
まずアッパーミドルゾーンで受賞した「ビースリー」(バリュープランニング)。下半身を美しくみせるボトムスの専業メーカーで1994年に神戸で創業したが、この「魔法のパンツ」(メンズもある)だけで年商112億円(2019年2月連結決算)は立派だ。下半身を美しく見せることを徹底的に追求した成果であろう。ファッション性やデザイナーの感性に依拠しないためには機能性の追求が一つの道になるが、「ビースリー」の成功はそうしたことを証明している。
私が知らなかった2つ目のブランドは、今回から初めて設けられたESG賞を「ロンシャン(Longchamp)」(ロンシャンジャパン)とともに受賞した「CFCL(シーエフシーエル)」(CFCL)だ。2020年にデビューしたばかりのブランドだがすでに国内外の約70店舗ほどで取り扱われている。同社の代表でクリエイティブ・ディレクターは高橋悠介(1985年東京生まれ)だ。2013年から6年間「イッセイミヤケ メン(Issey Miyake Men)」のチーフデザイナーを務めた。Clothing For Contemporary Life(現代生活のための衣服)の頭文字をブランド名にした「CFCL」は3Dコンピューター・ニッティングによるニットウェアのブランドだ。2021年1月から販売されている。Vol.1(このブランドでは「春夏」や「秋冬」でのシーズン表示がない)では花器や茶器などをテーマにした22型のニットを発表した。これが大好評だったので、百貨店のバイヤーも注目したようだ。このブランドは日本のアパレル業界では初のLCA(ライフサイクルアセスメント)を実施。ちなみにVol.1で登場したある1着が廃棄されるまでは4.99kgの二酸化炭素を排出しているという。こうして数値は1着ごとにきちんと管理され「未来に責任のある服作り」が徹底されている。現在サステナビリティに配慮したブランドは多いが、この「CFCL」のように「ハッとするような美しさを感ずる」ブランドは意外に少ない。
もう一度書くが、ここに紹介した2つのようなブランドが毎シーズン10ブランドくらいこの繊研のバイヤーズ賞を受賞しないことには、百貨店の復権なんて夢のまた夢だと思う。百貨店バイヤーの猛省を促したい。