6月29日には注目すべき株主総会が2つあった。ひとつは、衣装ケース「Fits」で知られるプラスチック製品メーカー天馬(てんま。東証一部上場企業)だ。年商763億円(2021年3月期)、コロナ禍でも減益ながら黒字をキープできているし、借入金ゼロの優良会社だ。その天馬の29日の株主総会では、既に提出されていた取締役の選任をめぐる計4本の提案から2本が可決された。可決されたのは大株主である米国投資ファンドのダルトン・インベストメンツグループ及び香港の投資ファンドであるオアシス・マネジメントが共同で提出した取締役選任案と取締役会が提出した提案だった。否決されたのは監視等委員会と創業家から出された2本だった。その結果監視等委員会の社外取締役2人の退任が決まった。紛糾の原因は、ベトナムにある天馬の子会社が追徴税を逃れようと現地公務員に2500万円の現金を渡していたことが発覚し問題化したこと。この事件の責任をめぐって取締役会と監視等委員会が対立していた。さらに両陣営に創業家(長男の株を継承した次男と四男)が反目して付くという事態になっていた。結局取締役会に軍配が上がって、これと連合したダルトンとオアシスの投資ファンドが漁夫の利を得たと言われる。これを機に投資ファンドと次男は一気にMBO&非上場化する目論見があると言われ、それを見越した買いも入っていて株価は年初来高値を更新している。
6月29日に注目されたもうひとつの株主総会は、すでに何度か既報している紳士服チェーンのはるやまホールディングス(東証一部上場)の岡山市での株主総会。現在の治山正史社長(56歳)とその父の創業者の治山正次氏(89歳)とその長女岩渕典子氏(58歳)が治山社長の取締役再委任をめぐって対立。昨年に続いて「治山正史社長の取締役解任」を提案した。昨年は51%対49%で否決されていた。そして今年治山社長が幕引きを狙って提案した中村宏明社長(57歳)&治山正史取締役会長就任の案は賛成多数で可決され一件落着になった。ただし中村新社長が業界2位のAOKIホールディングスの副社長だったことが思惑を呼んでいる。以前はかなりあった紳士服チェーン首位の青山商事との年商差がここ数年で縮まり、首位逆転を目指すAOKIホールディングスが西日本に強いはるやまHDを合併する布石ではないかという見方が広がっているのだ。
いずれにしても、最近の東芝株主総会での「社長再任NO!」決議が話題になったように、かつての「異議なし。シャンシャンシャン」の20分間株主総会は過去の遺物になりつつある。海外ファンドだけでなく「もの言う株主」が増えて、経営トップの再任NO!というような結果が見られるようになっている。特にコロナ禍で業績が悪化して、経営の責任が問われる昨今は株主総会を乗り切るのは容易ではない。さらに創業家の反目がからんでくるようなことになると、企業のイメージやブランドイメージに傷がつくような最悪の事態に陥ることもある。創業者の父と娘の経営権争いあり、結局はヤマダ電機の傘下入りした大塚家具の例を挙げるまでもないだろう。上場会社には、安定株主つくり&株主対策という難題が重くのしかかってくる昨今である。