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ラフ・シモンズと「プラダ」の本当の関係を書きます!

Oct 1, 2020.橋本雅彦Tokyo, JP
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ラフ・シモンズ Christian Dior : Runway - Paris Fashion Week - Haute Couture Fall/Winter 2015/2016 Photo: Victor Boyko

コレクション・サーキットがニューヨーク・ファッション・ウィークを皮切りに始まっている。その中で最大の注目を集めたのが、「プラダ(PRADA)」の共同クリエイティブ・ディレクターに就任したラフ・シモンズ(Raf Simons、1968年1月12日生まれの52歳)とミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada、1949年5月10日生まれの71歳)の共同作業がどういうものなのかということ。9月24日に発表された。

そのコレクションの出来を語る前に、なぜラフ・シモンズは「プラダ」の共同クリエイティブ・ディレクターに就任したかということであるが、簡単にいうと「金」であろう。そう書くと身も蓋もないのであるが、これは間違いないだろう。「ラフ・シモンズ」という自分のブランドでは、従来のメンズに加えて、2021年春夏からはウィメンズ・コレクションも発表するのだから、お金が必要になる。コレクション・ショーを自前でやるほど、残念ながら「ラフ・シモンズ」は売れていないのである。アルバイトをするにも、ビッグメゾンでなければそれなりの金は支払ってくれない。それよりも、ラフはファッション・メゾンきってのビッグブランド「ディオール(Dior)」のアーティスティック・ディレクターを務めた男なのである。それなりのブランドでなければ引き受けるわけにはいかなかっただろう。そこで舞い込んで来たのが「プラダ」の共同クリエイティブ・ディレクターという話。

ラフはその話を聞いて、「え、共同ってどういうことなの?」と言ったと思う。仲介者は「名前だけだよ。ミウッチャはいろいろ言うだろうけれども、あとは君に任せるようになるから」と言われたはずである。ここ5年ばかりの「プラダ」のクリエーション全般には、ミウッチャのクリエイティブ能力の衰えが如実に表れていたのは、業界人なら周知の通り。しかも、それがプラダ社の業績にもストレートに反映していたのだから堪らない。ミウッチャと夫のCEOであるパトリツィオ・ベルテッリ(Patrizio Bertelli、1946年4月6日生まれの74歳)の間に凄まじい夫婦喧嘩が繰り返されていたのではないだろうか。つまり「辞めなさい」(ベルテッリ)、「私は絶対に辞めない」(ミウッチャ)の押し問答である。そこでベルテッリCEOが考えついたのが共同クリエイティブ・ディレクターという案だったのだろう。ミウッチャは了承したが、さて誰がいいだろうということになった。

そこで浮上したのがラフ・シモンズだったというわけだ。

プラダ社とラフ・シモンズの結び付きは、これが最初ではない。プラダグループに買収されていたジルサンダー社で2004年11月にベルテッリCEOとの衝突でジル・サンダー(Jil Sander)女史が2度目(!)の辞任をした後に、「ジルサンダー(Jil Sander)」のクリエイティブ・ディレクターに迎えられたのが他ならぬラフ・シモンズだったのである。プラダグループは2006年にチェンジ・キャピタル・パートナーズ(CHANGE CAPITAL PARTNERS)に1億2000万ドルでジルサンダー社を売却している。その後2008年9月にワンワードホールディングスがジルサンダー社を買収。ラフ・シモンズは2012年2月のミラノコレクションをもって辞任している。

こうした経過を見ると、プラダ社は昔からラフ・シモンズをかなり評価していたのではないかと思われる。そして、今回の共同クリエイティブ・ディレクター就任である。かなり筋が通った人選である。それと、プラダ社というのは「グッチ(GUCCI)」の買収事件(失敗に終わったが)の時にLVMH側について、かなり大立ち回りをしたグループで、その後も資本関係がないだけでLVMHの一番子分みたいな存在なのである。ラフは「ディオール」を辞めた後に、2016年8月に「カルバン クライン(CALVIN KLEIN)」のチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任し、2018年に同職を退任していた。

今回の「プラダ」ブランドの共同クリエイティブ・ディレクター就任にあたっても、ラフもベルテッリCEOもおそらくLVMHのベルナール・アルノー(Bernard Arnault)CEOに挨拶ぐらいはしているはずである。そうした意味で、ラフはLVMHの枠の中で棲息する傭兵デザイナーなのである。

さて、今回の9月24日に発表された「プラダ」のコレクションだが、ちょっと期待外れではなかっただろうか。本質がミニマリストのラフが、やはり本質はミニマリズムの「プラダ」に行ったら、こうなるだろう以上のものではなかったように思う。ロング&リーンのスタイリングは「プラダ」でかなり目新しいし、「プラダ」の逆三角形のロゴを洋服に付けるという一種のタブーは、外部から来たデザイナーでないとやれないことではある。水玉や穴あきニットも「プラダ」では新鮮ではあるが、むしろ音楽やプリントの柄に、ユースカルチャーに通じたラフらしさを感じた。ミウッチャの出番はあまりなかったように感じるが、どうだったのだろうか。この2人とベルテッリCEOの3人体制がどうなっていくのかは、ファッション業界の大きな関心事になりそうである。うまくいくには3人とも我が強すぎるように思えるのだが。

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