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Global|LVMHのティファニー買収に一時暗雲が漂った本当の理由

Jun 11, 2020.橋本雅彦Tokyo, JP
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コロナ・パンデミックのために暗雲が立ちこめていたLVMHのティファニー買収が予定通り行われることになった。昨年11月の両社の合意は、買収額162億ドル(1兆7300億円*)というLVMHにとっては過去最大の買収金額だった。しかし、LVMHは株価は下落中だが契約通り株式市場でティファニー株を購入しないと3月23日に発表していたが、再交渉あるいは破談になる可能性もありそうだと見られていた。が、ここにきて6月9日の決算発表の席でティファニー社のアレッサンドロ・ボリオーロ(Alessandro Bogliolo) CEO(最高経営責任者)がLVMHの買収を再肯定する発言があり、予定通り行われるようである。フランスのあるメディアはまず、契約不履行の際の違約金が5億7500万ドル(約615億円)と巨額なことが、LVMHの買収中止を思い留まらせたと伝えている。

しかし、果たしてそうだろうか。百戦錬磨の買収王のLVMHはそんな違約金のことは最初から承知の上で、買収取り止めに動いていたと思われるのだ。なぜ今回の取り止め騒動が起こったのか、ティファニー社の株価を振り返りながら考えてみる。

まず昨年10月21日に89ドル57セント(以下全て終値)だったティファニー株は、LVMH買収の噂が出てから急騰し、1株135ドル相当での買収契約が確定した11月27日には133ドル52セントの高値をマークし、その後130ドル台で推移を続けていた。しかし、コロナ・パンデミックが本格化する3月12日に130ドルを割り込み127ドル48セント、3月18日には今年の最安値の111ドル22セントまで下落した。その後株価は持ち直して、125ドル近辺を推移していたが、5月29日に128ドル13セントをマークした後は買収取り止めの噂が出て、6月4日には114ドル53セントまでまた下落していたのだ。

LVMHの経営者なら「株価が15%以上下落(130ドル→111ドル)したのだから、当然時価総額も15%下落している。1兆7300万ドルの買収金額の10%(1730億円)程度の値引きに応じるのが筋」という申し入れをしたはずである。この「コロナ・パンデミック」は契約の「特別例外事項」にあたるのだから当然だというのがLVMHの言い分だったはず。違約金の5億7500万ドル(615億円)など目ではない1730億円近い値引きである。それでLVMHとティファニーは協議に入っていたはずである。そしてその結果は「予定通り買収は行われる」というのが表向きのティファニー社CEOの発表になったのだが、当然値引きに相当する内容を契約書外でティファニー側は飲んだと考えるのが自然ではないのだろうか。

この買収話については、買収王のLVMHがティファニーに触手を伸ばしたという報道が圧倒的に多いのだが、今回の一連の流れを見てみると、どうも今回の買収話はティファニー側からLVMHにまず提案されたのではないかという気がしてくるのである。

そうした目でもう一度ティファニー社の業績を振り返ってみると、決して好調とはいえないのである。
・2018年1月期:売上高41.69億ドル/営業利益8.09億ドル/税引前利益7.60億ドル/当期純利益3.70億ドル
・2019年1月期:売上高44.42億ドル/営業利益7.90億ドル/税引前利益7.43億ドル/当期純利益5.86億ドル
・2020年1月期:売上高44.24億ドル/営業利益7.32億ドル/税引前利益6.90億ドル/当期純利益5.41億ドル

最近3年の業績推移を見るとまず営業利益、税引前利益が2年連続減少しているのが目を引くが、全体的に伸び悩んでいるのが明らかなのである。なるほど、これは巨大ラグジュアリーコングロマリット傘下、それもジュエリー部門を強化中のLVMH傘下に入って、次の成長を期した方がベターではないかとティファニーの経営トップが考えるのは自然だろう。話を持って行ったらLVMHはすぐに乗ってきたというのが真相ではないのか。LVMHが仕掛けてきた買収話であるならば、「コロナ・パンデミック」で買収話が消滅するならそれはそれで良いと思うとティファニートップは考えるだろうから。いずれにせよ、LVMHが株価下落でダダをこねたことはまず間違いないと思うが、買収話はこのまま進んでいきそうではある。

*1ドル=107円換算(2020年6月11日時点)

 

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