「H&M」が日本人のデザイナーとコラボするのは「コム デ ギャルソン」の川久保玲が最初(2008年)で「トーガ」は2つ目のブランドになるという。
川久保玲がこの「H&M」とのコラボをいまだに後悔しているのは何度か書いた。コラボ料は数億円と言われているが、あるジャーナリストに「なぜファストファッションとコラボなんかするのですか?」と詰問された川久保玲は「私は経営者でもあるんです」と答えたという。たぶんその数億円はコム デ ギャルソン社のボーナス資金に充てられたと見られているが、真相はさだかではない。
「サステナブル」というテーマがファッション業界で定着してから、もうかれこれ10年になるが、その「サステナブル」から目の敵にされているのが、ファストファッションである。安い賃金の国でトレンド服を大量生産し、大量販売し、大量のゴミを出すシステムはアンチ・サステナブルの極みとみなされ始めている。心あるデザイナーならファストファッションとのコラボは避けたいところだろう。
なぜ「トーガ」は「H&M」からのコラボ依頼に「イエス」と答えたのだろう。あの反体制・反骨のメッセージを送り続けていた頃の「トーガ」を知っている私としては釈然としないのだ。まあ、コロナ禍に苦しんでいるだろうし、「私は経営者でもあるんです」と答えられればそれ以上追及することもないのではあるが。
日本を離れて、パリ、ロンドンと本拠を移して古田泰子は大きく変わったようだ。
2017年10月には、創業20周年を記念したかなりスペクタクルなショーを新国立美術館で行った。「おい、おい、20周年ぐらいで喜んでいるんじゃないよ」とも思ったが、よく考えてみれば、当世いわゆるクリエーター系デザイナー稼業で20年も続けているデザイナーなんて滅多にいないのだ。
実際に私もそのショーを見たが、ある意味ヨーロッパのブランドとして「サマ」になっていたのに正直驚いた。反体制のメッセージを過剰に発信していた頃の気持ちばかり先行して形が追い付いていない粗削りの古田泰子ではもうなかったのだ。翌年古田は2009年に続き2度目の毎日ファッション大賞を受賞した。古田は2003年には同賞新人賞も受賞しているから、毎日新聞の古田評価の高さには驚かされる。
1997年創業だから、24年も続けられたのは、もしかしたら資金潤沢なパトロンでも登場したのだろうか。それとも24年間に数少ないとは言え決して離れない熱心なファンを獲得したのだろうか。まあそんな他人の財布の中をのぞくような失礼なことはよそう。
そして、ある意味ではもうひとつの大きな「勲章」ともいえる「H&M」との今回のコラボ。前述したように、私にはこれは「勲章」とはとても思えないのだけれども、いくつかのインタビュー記事を読む限りでは古田はそうは思っていないようだ。
もう私の心の中にある「トーガ」ははるか遠くへ飛んで行ったようだ。今回のコラボが「トーガ」に今後どんな恩恵をもたらすのかはわからない。たぶん「トーガ」にも「H&M」にも影響は軽微だと思う。そんなことより、古田泰子の「トーガ」が今後どんな道を歩んでいくのか見守りたいと思う。30周年のショーをこの目でぜひ見てみたいものである。