「アンダーカバー(UNDERCOVER)」と「ビューティフルピープル(beautiful people)が、楽天の支援をうけてリアルショーを東京で(3月19日と3月15日)行うことになった。これは現在東京ファッションウィークの冠スポンサーである楽天が日本発のブランドの支援プロジェクト「バイアール(byR)」の昨年に続く第二弾である。第一弾では「ダブレット(DOUBLET)」と「ファセッタズム(FACETASM)」が選ばれていた。
昨年が「ダブレット」と「ファセッタズム」で第二弾は「アンダーカバー」と「ビューティフルピープル」というのもちょっとばかり首を傾げたくなる。儲かっているかどうかは知らないが、パリコレ常連の「アンダーカバー」や「ビューティフルピープル」を「支援」するとは何事かと思うのだ。「アンダーカバー」に至っては実に19年ぶりの東京での単独ショーである。存在感がどうしても出せない東コレ(東京ファッションウィーク)の活性化策として考案されたのだろうが、とにかく東コレには「華」がない。最も強烈なカンフル剤は、「コム デ ギャルソン(COMME de GARÇONS)」「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」「イッセイミヤケ(Issey Miyake)」のパリではリアルショーを行うが東京ではリアルショーを行わない御三家に東京でリアルショーを行わせることだ。しかし、この御三家はなかなか首をタテに振らないのである。「コム デ ギャルソン」は南青山の本社で40人ほどのジャーナリストを集めて昨年10月にショーを行っている。しかし、同社アタッシェ・ドゥ・プレスによると「これはパリコレクションです」と答えている。耳を疑って聞き返したが、「コロナ禍のためにパリでは行えないだけで、私たちにとってはこれはパリコレクションなのです」。なんというパリコレ絶対主義なのだろうか。呆れるのを通り越して一種の恐さを感じてしまう。「東京を盛り上げるためにも、ぜひ東京でファッションショーをしていただけませんか?経費は全て私共が持ちますので」と何度川久保玲社長に組織の偉い方々が陳情に出かけたことだろう。しかし答えはいつも「NO」。昔はパリでも東京でもショーをやっていたのに、東京ではやらなくなってしまった。何かあったのだろうかと勘ぐりたくもなってくる。要するに東京でショーを披露しても意味がないということなのだろう。
その女帝川久保玲から可愛がられ認められて来た裏原の若大将高橋盾ももう51歳(1969年9月21日生まれ)になった。愛娘の高橋ららはパリコレのランウェイを闊歩する人気ファッションモデルだ。パンクロックバンド、セックス・ピストルズのジョニー・ロットンに似ているから愛称はジョニオ。もう業界関係者でも知っている人間は少なくなったろうがジョニオが現在手がける「アンダーカバー」(オトリ捜査の意味)は、文化服装学院アパレルデザイン科在学中に同窓の一之瀬弘法とともに立ち上げたブランドだった。のちに2人は袂を別ち、一ノ瀬はメンズブランド「ヴァンダライズ(Vandalize)」を立ち上げ1999年には東コレデビューしていた。同年にはモエシャンドン新人賞も受賞していて、「アンダーカバー」に劣らぬ人気だった。しかし、2007年あたりには原宿店は閉鎖されていたというし、一之瀬の消息も掴めない。「ヴァンダライズ」の昔日の人気や一之瀬の実力を知る者からしたら、なんとも哀しくなる。
それに比べればジョニオはある意味で図太く、ファッション業界を生き抜いてきたのかもしれない。もう東コレデビュー当時の、桐生から出てきた田舎者の生意気小僧の反逆の爪は丸く削られたかもしれないけれども、それなりにその時々で話題を提供してきた。ナイキとの「ギャクソウ(GYAKUSOU)」プロジェクト、「ユニクロ(UNIQLO)」とのコラボ「UU」、最近では「アマゾンファッションウィーク東京」で開催された「サカイ(sacai)」との合同ショーなどが話題になった。振り返ってみるとコレクション自体よりもコラボが話題になることが多いようであるが、今の時代ではコレクションの内容が話題になるなんてことは滅多にない。機を見るに敏なジョニオは、そんなことはとっくの昔にご存知なはずである。2015年に東京の初台・オペラシティアートギャラリーで行われた「アンダーカバー」25周年記念展を個人的に見に行ったことがあるが、来場者は私を入れて5人いただろうか。平日とはいえ恐ろしいほどの不入りだった。「わざわざ母校文化服装学院の近くで大々的に開いた回顧展なのにこんなもんかよ」と思った記憶がある。
それに引きかえ、2月19日から発売するナイキとのコラボスニーカーなんていうのは毎日WEB予約抽選にファンが殺到して大変なことになっているというから祝着である。そういえば一昨年あたりはUにアンダーバーの紙袋を持った中国人を原宿でよく見かけたけれどもインバウンドがなくなって「アンダーカバー」もかなり苦しいと思うが、まあ今や汚れた英雄とでも言ったらいいのか、コラボ名人になってしまったジョニオの図太い生命力にはコロナも逃げ出すのではないだろうか。