「ヴァン クリーフ&アーペル(Van Cleef & Arpels)」は9月7日、写真家の蜷川実花によるディレクションのもと、花を称える展覧会「フローラ」展(Exposition Florae)を開催すると発表した。建築家の田根剛がデザインした臨場感あふれる装飾が施された展覧会には、ブランドのヘリテージ・コレクションと100点を超える現代のジュエリーと共に、蜷川の色鮮やかな作品が展示される。
「ヴァン クリーフ&アーペル」は1906年の創業以来、植物の儚い美しさに魅せられ、自然界から無限のインスピレーションを汲み取ってきたブランドで、同展のタイトルにもなっている「フローラ(植物相)」は自然界の果てしない変容を映し出す貴重な素材と共に、ブランドの作品にエナジーを吹き込んでいる。今回の展覧会のために蜷川が撮影した写真は、ダリア、バラ、桜のあらゆるニュアンスを鮮やかに表現しており、再び命を吹き込まれたかのような生気を放つ花々を見ることができる。
同展は、蜷川実花とメゾンが共有する花のビジョンを反映した3部構成となっている。第1部では、現実に即した表現を際立たせた自然主義的な美学を紹介している。写真やジュエリーに表現された自然な色合いや花冠のボリューム感、花びらの質感や特徴に着目し、代表的なジュエリー作品として、1937年に制作された「ミステリーセット ピヴォワンヌ クリップ」や「ミオソティス ウォッチ」を展示している。第2部では、ブーケに焦点を当て、1930年代から1940年代のブランドの作品の多くを飾る花々が織りなす見事な構成や、写真家が称賛してやまない豊かなバラの茂みなど、花があふれんばかりに咲き誇る花壇に賛辞を贈ります。そして、最後の第3部では、様式化された花のビジョンに注目している。ここでは、自然のリアリスティックな表現に代わり、グラフィカルなライン、印象的な色の組み合わせ、そして動きを感じさせる表現が浮かび上がる。クチュールに着想した「シルエット クリップ」など、異なる芸術の世界からの影響がメゾンの作品に光を与え、デザインの新たなレパートリーを育んでいる。
蜷川は、「私は花を撮影することで、その儚い美しさを捉え、不滅のものにしたいと願っています。永遠に続くものはありません。だからこそ、まさしくその瞬間だけに現れる美しさを留めておきたいのです。私が目指しているのは、花が放つ束の間の輝きを写し、写真の中で永遠に生き続けさせることです。私と同じように、『ヴァン クリーフ&アーペル』もまた、移ろいゆく自然の姿に魅了されています。花の動きをジュエリーに写し取ろうとするメゾンの姿勢に、私は大いに刺激を受けました。今回の展覧会では、こうしたジュエリー作品と私の写真が互いに呼応し合っています。それらが一つになることで、花の新たな魅力を引き出しているのです」とコメントしている。
ジュエリーと写真との芸術的な対話を演出するために、蜷川と「ヴァン クリーフ&アーペル」は、パリを拠点とするATTA(Atelier Tsuyoshi Tane Architects)の創設者である建築家の田根剛に、会場デザインを依頼した。田根が「フローラ」展に向けて思い描いたのは、光と鏡の戯れを基調とした没入型のセットデザインで、空間演出の軸として、無限の色彩効果を持つ「万華鏡」と、この夢のような空間で来場者を迷わせる「迷路」という2つの主要なコンセプトが織り込まれた。展覧会の順路は、光を反射するガラスの壁で構成され、ライトアップによって蜷川の写真 が壁に映し出される仕組みになっている。一方、メゾンの作品は、周囲の環境に溶け込むよ うに特別にデザインされた繊細な展示ケースの中で輝きを放ち、あたかもこの壮麗な庭園に浮かんでいるかのように思わせる。会場を進むにつれ、来場者が抱く空間のイメージは刻々と変化し、それはまさしく感覚に訴えかける体験となる。この幻想的な迷路には、植物の形状、細部、色合いが無限に反映されており、ルイス・キャロル(Lewis Carroll)の『不思議の国のアリス』やミヒャエル・エンデ(Michael Ende)の『モモ』の中の一節を彷彿させる。そこでは、花は生きる時間の象徴として描かれている。
「フローラ」展は9月10日から11月14日まで、仏・パリのヴァンドーム広場にあるオテル デヴルー(Hôtel d'Evreux)で開催される。事前予約制で、入場は無料。