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従来のシャネル像を一変させた映画「ココ・シャネル 時代と闘った女」を大推薦‼︎

Jul 22, 2021.三浦彰Tokyo, JP
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7月23日から渋谷の「Bunkamura ル・シネマ」において、映画「ココ・シャネル 時代と闘った女」が7月29日まで上映されるが、その後全国の映画館でロードショーされる予定だ。監督はジャン・ロリターノで、「Made in Italy 1951-2014」(2015年)、「Paris Couture 1945-1968」(2016年)などファッション系のドキュメンタリー映画を手掛けており、この「ココ・シャネル 時代と闘った女」は2019年に完成した上映時間55分のドキュメンタリー映画である。

映画で取り上げられるファッションデザイナーのトップは、このココ・シャネルことガブリエル・ボナール・シャネル(1883.8.19~1971.1.10)である(ちなみに第2位はイヴ・サンローラン)。「ココ・シャネル / Chanel Solitarie」(1981年)、「ココ・シャネル / Coco Chanel」(2008年)、「ココ・アヴァン・シャネル / Coco avant Chanel」(2009年)、「シャネル&ストラヴィンスキー/ COCO Chanel &Igor Stravinsky」(2009年)などが主だった映画化だ。いずれもシャネルを「情熱的」「エレガント」「ロマンティック」「ドラマティック」で偉大な存在として描いている。私の記憶に間違いがなければ、いずれもシャネル社の協力があり、また協賛もしていたように思うが、今回の日本公開に関しては、後援が在日フランス大使とアンスティチュ・フランセ日本(旧東京日仏学院)で、シャネルは協賛していない。今年2021年はココの没後50年、香水の女王「No.5」の誕生100年だというアニバーサリーイヤーであるにもかかわらずである。

それくらい今回の「ココ・シャネル 時代と闘った女」は、ココ・シャネルの激烈な人生を赤裸々に描ききっている。ココは「皆殺しの天使」の異名を持っているが、ココを執念と嫉妬と憎悪の女のように描いている。とてもこの映画を見て、「シャネル」ファンになるというのはなかなか考えづらい。「シャネル」がこの映画をブランドにとって好ましくない存在と考えたのは当然だろう。

この映画は、2011年以降に発見された新事実を踏まえているのだ。特に第二次世界大戦中のナチスへの協力が綿密に描かれいる。その協力はドイツ軍の捕虜になっていた甥を釈放するためだったという。またこの映画では、12歳の時に修道院に預けられそのステンドグラスがダブルCのロゴに反映し、その石畳や十字架などが直線的なデザインに影響していたという従来の定説を否定している。亡き母の姉のところに預けられ家政婦をしていたという12歳時の戸籍が最近発見されたからだ。

またココのライバルと目されたエルザ・スキャパレリが「TIME」誌の表紙を飾ったことに腹を立てて、スキャパレリをあるパーティーに呼び出し、燭台の近くにおびき寄せてロウソクの火がスキャパレリのドレスに飛び火するように細工したという空恐ろしいエピソードも紹介されている。さらに小説家のフランソワーズ・サガン(1935.6.21~2004.9.24)は「モードは好きだけど、ココ・シャネルは大嫌い。2度食事をしたが、ユダヤ人に対する悪口に耐えられなくて2度とも途中で退出した」などという発言も挿入されている。これではまるで意地悪婆さんみたいなものだが、今までのココ・シャネル像を一変させるようなドキュメンタリー映画である。

また現在シャネル社の全株を保有してニューヨークに在住するヴェルタイマー(ヴェルテメール)兄弟とココの経営権をめぐる執拗な闘いも克明に描かれていて興味深かった。ココとは馬好きが縁で関係が始まったというのが私には特に面白かった。

この映画の公式サイトでフランス文学者の鹿島茂氏はこんなコメントを寄せている。「『自分以外の全てが大嫌いだから、その全てを変えてやる』。この意味でシャネルはありうべからざる挫折しなかった革命家に他ならない」。また服飾研究家の深井晃子氏は「彼女のスキャンダルは生きるための必然だった」。シネマ・エッセイストの高野てるみ氏は「あまりに知られ尽くしたココ・シャネルの人生だから、イジられてこそ本物!」とコメント。

55分と尺は短いが、これは十分だ。ココは目的のためには男と寝るのも平気という執念の女だったが、「人生は退屈だ。私は退屈というのが本当に嫌いだ」とつぶやくワーカホリックの女は実はとんでもない孤独なニヒリストなのではないかという気がして慄然とした。

ファッションに限らず、人間、特に怪物的な人間に興味のある人には是非見てもらいたい映画だ。このドキュメンタリー映画はココの偉業をいささかも減ずるものではないし、私はますますココが好きになった。ただしシャネラーには絶対お勧めしない(笑)。

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