9月7日から始まった楽天ファッション・ウィーク東京が大盛り上がりを見せ、コレクションシーズンが華々しくスタートを切った。憎き新型コロナウイルスのせいでここ最近のショーはオンラインでの開催が増えていたが、2022年春夏のショーはどうやら少しづつリアルでの開催も増えてきたようだ。揺れ動く社会情勢の中で新たなより良い表現方法を手探りで試したブランドが多かった今季の中でも、特に目立っていたショーを振り返っていく。
フィジカルショーを実施したブランドは、久しぶりにコレクションを生で見せられる機会ということで場所や演出にこだわりを詰め込み、趣向を凝らしたショーを披露していた。そんな中でも「まさか、そんな場所で?」と思うような会場選びをしたブランドがある。今回は東京に絞って2ブランドを紹介する。1つ目は「カラー(kolor)」。なんと会場は京急線。招待客は品川駅から乗り込み、京急蒲田駅まで電車にゆられた。そして蒲田駅でホームからモデルが乗車後、電車やホームでのショーを楽しんだ。電車内では広告まで「カラー」がジャックしており、閉幕後には駅弁チックなフードが配られたそう。まさにリアルでしか行えない演出で客を喜ばせた。
2つ目は「ダブレット(doublet)」。会場となったのは三鷹にある農園。会場ではヤギが来場者を待ち受け、座席はコンテナ、頭上にはまだ熟れていないブドウが実っていたそう。そんな穏やかな空気感の中ショーが始まると、パンクロックが鳴り響きド派手なライトが輝いた。そしてパンキッシュなスタイルのモデルたちが登場。開幕前の空気感との違いに驚く観客も多かっただろう。環境に配慮したサステナブルな洋服が増えていく今、「いい子なやり方に違和感を感じた」というデザイナーの伊野将之氏の反骨精神が込められた演出はフィジカルショーだからこそ味わえたのではないか。
リアルでのショーが増えた一方で、コロナ禍で進んだバーチャルとの融合で魅了するブランドもあった。デザイナーの長嶺信太郎氏が手がけるメンズ・ユニセックスブランドの「コンダクター(el conductorH)」は、ショーの新しい形式として短編映画という手法を選んだ。デジタルとフィジカルの融合を目指したという長嶺氏は、デジタルでも生で見たのと同じ感動を味わえる一方で、来場者には映画館での鑑賞という経験が味わえる、映画という手法を用いた。渋谷のユーロスペースを会場にし、唐田えりかを主演に迎えて劇中で新作を発表した。映画館で皆で1本の作品を見るというフィジカルな体験と、画面上でどこでもみられるというオンラインをつなげたアフターコロナの新しい表現形式の先駆けとなった。
また、バーチャルでのコレクション発表に振り切った中でも目立っていたのは「エヌハリウッド コンパイル(N. HOOLYWOOD COMPILE)」。アプリ上での公開というだけでなく、モデルもデジタル世界の住人なのだ。グレーのマネキンのようなものがバーチャル世界の中で新作コレクションを纏って歩く。フィジカルなショーに立ち返るブランドが増えた今回のコレクションシーズンで、これほどまでに近未来的な公開方法を取ったブランドもあったのだ。
実際に自分の目で見て体験することでしか味わえない感動もあれば、バーチャルの世界だからこそ出会える感情もある。さらに、それらを融合させることでのみ誕生する体験もあるだろう。媒体や表現方法が多様化し可能性が無限に溢れかえる今、デザイナー達はどのような方法で私たちを楽しませてくれるだろうか。