広告代理店最大手の電通グループは、東京都・汐留の本社ビルを売却する検討に入った。電通本社ビルは地上48階、地下5階、高さは約210メートルある超高層ビルで2002年に完成した。電通本社ビルは、フランスの著名建築家ジャン・ヌーヴェル(Jean Nouvel)が手掛け、1階にはジュリアン・オピー(Julian Opie)の作品が設置され、4階には横尾忠則のタイルが床に敷き詰められているなど、広告業界における電通の存在感を象徴するかのような建物だ。売却後は同ビルの一部を賃借し、本社の移転もしないという。電通は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、昨年2月26日からリモートワークを基本とした業務体制を敷いている。電通本社ビルに勤務する社員は9000人ほどで、現在の出社率は2割程度に抑制している。そのため多くのスペースが利用されずにいる状態が続いていた。電通としては、固定資産を売却することで働き方改革を加速させるとともに、財務基盤を強化する考えだ。なお、汐留本社ビルの売却額は3000億円規模になるとみられる。
このシンボリックな汐留本社ビルを売却する電通グループになにが起こっているのか?同社は、固定資産の売却だけではなく、リストラも加速させている。電通グループは海外145カ国・地域以上で事業を展開しているが、海外事業に従事する全従業員の約12.5%にあたる約6000名を削減し、その費用として約561億円を2020年12月期に計上する。国内従業員に対しては、個人事業主化による早期退職プログラム「ライフシフトプラットフォーム(LSP)」を昨年実施し、約230名が応募した。また、昨年11⽉30⽇には同社が保有するリクルートホールディングスの株式5355万株のうち4337万6000株を売却することを決定、売却益である約1550億円は2020年12月期の個別決算において特別利益として計上する。
株価も下落している。2020年1月6日(始値)に3655円だった株価は12月30日(終値)には3065円となり、昨年1年間で16.2%下落した。昨年12月7日に発表した2020年12月期通期の連結決算予想(国際会計基準)は、売上高にあたる収益は9287億円(前年同期は1兆478億円)、営業利益は114億円の赤字(同335億8000万円の赤字)、当期純損益は237億円の赤字(同808億9300万円の赤字)になる見込みとし、2年連続の最終赤字はほぼ確実だ。昨年、電通グループは持続化給付金事業をめぐる問題で大きな批判を浴びたが、その際に事業を受託したサービスデザイン推進協議会が報道陣に公開したオフィスはまるで実態がないかのようだった。電通が引き払った汐留本社ビルの一部フロアによもやサービスデザイン推進協議会が移転してくるようなことがないことを願いたいが、東京オリンピック・パラリンピックが開催される予定の今年、電通グループの動向はより注視されるだろう。