「真面目な消費者」をきちんと考えてみよう。1997年〜2015年の日本人の平均年収に関するグラフ(出典:国税庁民間給与実態統計調査)を見てみると、465万円から420万円まで減少している。月額にして3万7000円。これはかなり大きい。最近6年間はアベノミクスで増加気味ではあるけれども、とても体に染み付いたデフレマインドを振り払うのは難しい。もうそんなムードでどうこういうようなレベルではなくなっているのだ。
ましてや、この状態で消費者がファッション&アパレルに所得を振り分けるなんていうことがあり得るのだろうか。ある業界人によれば、「ここ2年間のファストファッション消費の落ち着きを見ていると、ファッション消費浮上がそろそろありそうな気配がする」のだそうだ。こんな超楽観主義の人が業界で生存しているぐらい、まだまだこの業界も甘いのだ。
ファストファッションを買わなくなった消費者は、ちょっと高そうだけれども実質は大して変わりばえのしない自分のブランドを買ってくれるとでも思っているのだろうか。
真実はそうではない。ファストファッションすら買わなくなってしまっているのである。この繊研新聞の第1面「ファッション消費が良くなると思っている企業増加。ただし厳しい基調は変わらず」という毒にも薬にもならない記事も、ただただ業界をなかんずくオールドタイマーの業界人を忖度した結果だろう。
「おいおい、あなたはそんな悲観論をバラまいてどうする気なんだよ」と言われそうなのはよくわかるけれど、この平均年収推移のグラフは、今の消費動向の実態をかなり反映している。
2012年(平成24年)12月の第2次安倍内閣誕生以降のいわゆるアベノミクスの2つの成果は、失業率の低下と日経平均株価の上昇だ。しかし、肝心の平均年収は10万円程度の増加。その前の20年間に失われた年収70万円減の前ではさしたるインパクトもない。この状況で現在40歳代以上の勤労者に、消費なかんずくファッション&アパレル消費を望むのはたしかにかなり難しいのだ。
もし、いくばくかでも可能性があるとすれば所得推移が上向きに転じる2008年のリーマン・ショック以降に社会人になった人々。つまり30歳以下の世代をターゲットにしたブランドということになる。
そしてその世代に向けた商品開発が可能なのは、やはりそうした世代の人間が商品開発をしている企業ということになる。そうした企業がこの業界の推進力になっているのかというと、これもまた心もとない気はする。はっきりしているのは、オールドタイマー企業は若い世代にバトンタッチが上手くなされないと、死滅する事態もありうるということ。というより、自然死は免れないだろう。
ポストリーマン世代の企業や起業人の活躍に大いに期待したいものである。