2月決算企業の決算発表が続いている。いわゆる百貨店をメインチャネルにするアパレルメーカーの苦戦が目につく。その中でも注目を集めたのは三陽商会の決算(2020年3月1日〜2021年2月28日)だろう。すでに既報したが、売上高は前年が決算期変更に伴う14カ月決算なので比較は難しいが、各段階の利益については、営業利益:−28億9900万円→−89億1300万円、親会社株主に帰属する当期利益−26億8500万円→−49億8800万円と、大きく赤字幅が拡大している。今回の決算はまさにコロナ禍ド真ん中の決算であるので、この大幅に拡大した赤字もやむを得ないが、5期連続の最終赤字でかなり危険な水準に入っている印象だ。記者発表の席上、大江伸治社長は「大規模な構造改革は前期でほぼ完了したと考えている。コロナ禍は続いているが、何が何でも黒字化を実現したい」と語っている。
同社の今年3月の売り上げは前年比116%と大きな伸長を見せているが、昨年3月が前年比56%だったことを考えると、一昨年比では65%である。なんとも心もとないが、ここに来て大株主の持株数に大きな異動があることが4月2日に発表されている(既報)。現在の同社の大株主順位第1位の八木通商の株式が2020年8月31日の120000株(総株主の議決権の数に対する割合9.96%)から2021年2月28日に1273300株に買い増しされ、その割合は10.57%まで増加した。
三陽商会の大株主と言えば、現在第2位で7.60%保有のRMBキャピタルマネジメント・エル・エル・シーが2020年に取締役選任などの株主提案を行なって否決されたのが記憶に新しい。今回の八木通通商の株式買い増しの狙いは何なのか?
周知のように、三陽商会は2015年に全社売り上げの大部分を占めていた「バーバリー(Burberry)」とのライセンス契約の更新ができず、その穴埋めとして三井物産傘下の「ポール スチュアート(Paul Stuart)」とライセンス契約したのに加えて、八木通商がオーナーのマッキントッシュ社とライセンス契約を結び「マッキントッシュ ロンドン(Mackintosh London)」を市場に投入した。
八木通商の八木雄三社長は、今回の買い増しについて、SEVENTIE TWOの単独インタビューに答えて次のように語る。
「今週も三陽商会の大江社長が決算の報告にいらっしゃった。関係は良好だ。今回の買い増しについては特に大きな意味はない。10%を超えたから取締役を派遣するとか、経営に関して発言するとか、そんなことはない」。
—ロイヤリティ支払いの優先権確保とかの意味合いは?
「全くない。三陽商会は銀座の物件を売却するなど厳しい状況にあるが、それでも2月末決算時の純資産は334億円で自己資本比率は63.2%と財務内容は健全だ。その点の心配は全くしていない」。
―三陽商会の経営改革については?
「アパレル企業の経営者は本当に迷っている。コロナ禍でさらに厳しくなっている。私のところに相談に来る方々もいらっしゃる。リストラで止血処置はしたが、その後の成長戦略が見えないということだ。我々にしても同様で連日ヨーロッパの現地企業とテレビ電話で会議をしている。心配ないのはラグジュアリー分野だけだ。我々の関連では『モンクレール(Moncler)』は全く心配が要らない状況だ。『マッキントッシュ』もほぼ同様の動きだ」。
―三陽商会については?
「もちろん復活を信じているから株を買っている。その鍵を握る『マッキントッシュ ロンドン』だが、『バーバリー』から転換する時に、大々的な転換を行なったのが苦戦した原因だったのではないかと個人的には思っている。適正規模に戻り、ブランドの良さが徐々に浸透していると思う。期待している」と八木社長は語っている。