
トレンドはつねに移り変わる。昨日まで「流行」だったものが、今日はもう古く見えることもある。そんなスピード感の中で、yutoriが向き合っているのは、一瞬のバズではなく、クオリティの高いブランドでポートフォリオを組むことだ。yutoriは2023年12月、創業からアパレル業界史上最短でのIPO(新規株式公開)を達成し、「9090(ナインティナインティ)」や「HTH(エイチティーエイチ)」といったZ世代に支持されるブランドを展開しながら急成長している。今期は121億円と過去最高の売上高を見込む。
yutoriの事業展開は、大胆でときに冷酷にも映る。次々と新しいブランドが生まれる一方、同時にいくつかは姿を消していく。一般的なアパレル企業とは明らかに異なるスピードで事業を動かしている。だが、その意思決定の裏側にあるのは、勢いや感覚論ではない。むしろ極めて現実的で、慎重に設計された経営判断の積み重ねだ。
「アパレルは、当たるかどうかが分からない商売です。当たらなければ、引く。その積み重ねだけです。それができるのは、最初から撤退ルールを決めて、ビジネスを小さく始めているからです。在庫が何千万円も積み上がっていれば、撤退は難しい。だからこそ、最初から大きく賭けることはしません」。そう話すのは、yutoriの執行役員でコーポレート本部長を務める桐山英夫氏だ。美容師、そして税理士資格を持ち、デロイト トーマツ税理士法人でのキャリアを経て、現在はyutoriの経営中枢に身を置く。入社以来、片石貴展・社長と瀬之口和磨・副社長のツートップのもとで、経営管理領域を横断的に担っている。経理、経営企画、法務、総務の部署を管轄するとともにIRも担当している。
■「月と太陽」のツートップ
yutoriの経営を語るうえで欠かせないのが、このツートップだ。片石氏は表に立ち、トレンドや時代の空気を読みながら抽象度の高い経営戦略を描く。影響力を作り出すことにも長けている。一方、瀬之口氏は主に店舗開発や物流を担い、数字とロジックを軸に意思決定を重ねていく。性格も思考も正反対だが、その違いが補完関係として機能している。片石氏と瀬之口氏は、思考のスピードとリズムだけが共通している。アプローチは違えど、目指す方向は同じだ。
「ふたりは意思決定に完全に専念していて、現場には出てきません。それがこの会社にとって正しい形だと思っています」。権限は執行側に委ねる。その前提があるからこそ、判断のスピードが落ちない。桐山氏は、この関係性を「月と太陽」に例える。「イメージは逆かもしれませんが、瀬之口は真上から照らす太陽。正論で明瞭なので、影を作りません。一方で片石は月。月のように、影を生み、余白を残します。その影の中で人が考え、動く余地が生まれます。影響力とは言い得て妙であり、本人のいない所でまさに本人の影が響くようです」。この「月と太陽」の関係が、組織を前に進めていると話す。
■クリエイティブとマーケティングの両立
yutoriはSNSを強みに急成長してきた企業だが、それは一面でしかない。実際、yutoriはフォロワー数を過度に重視していない。「フォロワー数はKPIにはしていますが、最重要の意思決定指標ではありません。結果としてついてくるものです。それを最大化するために施策を打つ、という発想もありません」と語る。上場後、フォロワー数は一気に100万以上増え、300万が目前だが、それよりも重視しているのがクリエイティブとブランドポートフォリオの質だ。
yutoriは現在、30を超える自社ブランドを展開しているが、社内で半数近くを占めるのがクリエイティブを担う人材だ。ただし、採用時に重視するのは「作りたい人」ではなく「売れる感覚を持つ人」だ。感性に頼るのではなく、冷静にトレンドやマーケットを見る能力を求める。ブランドを構成するのは、クリエイティブディレクター、MD、SNS運用、生産管理の4機能だ。この体制がマーケティングを意識することで、Z世代に刺さるクリエイティブが生み出されていく。桐山氏は続ける。「yutoriは、アパレル企業であると同時に、マーケットドリブンなマーケティング企業でもあります」。
事業は高速で成長し、新しいブランドや事業が次々と生まれている一方、成長が鈍化したブランドは、見切る。その撤退スピードの速さもyutoriの特徴であり、ブランドポートフォリオの質の向上に繋がっている。そのために設立したのが、ブランドの月商規模でランク分けする「Yリーグ」制度だ。Y1からY5まで5段階あり、月商が700万円に満たないブランド(Y5)は撤退する。
新人ブランドが初年度で月商700万円は十分と言っていい数字だが、現在のyutoriの規模では、それでも絶対に残す理由にはならない。「感情的には残してあげたい。でも、ブランド経営は甘くありません」。撤退は、役員の気分ではなく、あらかじめ共有されたルールで決まる。その冷静さがあるからこそ、若い才能に挑戦の場を与え続けることができる。そして、成功よりも撤退を語れること。そこに、yutoriという企業の本質がある。
■「感性」と「実務」の両輪
桐山氏が、yutoriの強さとしてさらに挙げるのは、片石氏の「ロジカルな意思決定」の力だ。「パッと見で感性の人と思われがちですが、片石は数字に非常に強いロジカルな経営者の側面もあります。暗算も得意で、利益率をそらんじながら概算するのも早い。会話していても節々に感じますが、実際はかなり保守的で、合理的なロジックを立てて意思決定をしています」。この「感性と実務の両立」は、yutoriの関係者に共通する特徴でもある。その象徴的な存在が、「Her lip to(ハーリップトゥ)」を手がける小嶋陽菜だ。
「小嶋陽菜さんは、芸能活動で多忙な中でも、時間の多くをHer lip toに割いています。全てのプロダクト・SNSクリエイティブの企画から最終的なクリエイティブチェックまで、必ずご自身で行っています。スタッフに聞いても、『あれほど働いている人は今まで見たことがない。尊敬しかない』と口をそろえるほどです。素晴らしい感性を持ちながら、クオリティに一切の妥協を許さず、最後まできっちりやり切る。その姿勢は、会社にとって強みでしかありません」。「Her lip to」は現在、アパレルにとどまらず、ビューティやランジェリーへと事業を広げ、多角化を進めている。結果として、二桁成長を継続しており、ブランドとしての強度は着実に高まっている。
トレンドだけでなく、正解そのものが刻一刻と変わる時代において、昨日の発言に縛られず、ロジカルに今日の最適解を選び続ける。その意思決定の積み重ねの上に、30を超えるブランドと、数えきれないほどの挑戦が生まれてきた。派手にも見える成功の裏側には、撤退を含めた無数の選択と、冷静な判断の連続がある。月が余白をつくり、太陽が軌道を定める。その両輪があるからこそ、yutoriには人を引き寄せる強い重力が生まれている。






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