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2022年春夏パリメンズコレクション総評

Jul 13, 2021.もりかおりTokyo, JP
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「ディオール」 © George Condo

ミラノに続き6月22日から27日にかけて2022年春夏パリメンズコレクションが行われ、
72ブランドが新作を発表した。コロナ禍中でスタートした1年前は68ブランドだったので、少しずつ活気が戻っている。主流はデジタルでの発表だが、「ディオール(DIOR)」や「エルメス(HERMES)」他、若手でも急遽フィジカルでの発表に切り替えたブランドもあった。また緊急事態宣言が終結した東京ではパリコレ参加の「ダブレット(doublet)」や「キディル(KIDILL)」、「ターク(TAAK)」などがフィジカルで発表。なお、「キディル」「ターク」については公式スケジュール内では別編集したデジタル画像を配信してパリコレ参加している。

ミラノ以上にパリに集まった日本の12ブランド

メンズにおいてはここ数年、日本ブランドの10近くがパリコレに名を連ねている。今シーズンも12ブランドが発表し、もはやパリコレの一大勢力になりつつある。日本人デザイナーの特徴として素材使いの巧妙さや、ミリタリーをはじめとする古着への造詣からくる造り込みの細やかさが挙げられることが多い。オタク文化発祥の地である日本らしい、良い意味でのこだわりが世界から評価されているようだ。なかでも2018年にLVMHプライズでグランプリを受賞した井野将之が手がける「ダブレット」は、オタク的な作り方であえて笑いや毒気でその熱量を隠しているような服作りだと感じていた。そうした感覚を世界で認められたことは本人にとってもこれからの励みになることだろう。今回もベースにあるのはサステナブルな服作りだが、それを感じさせないパンクやロックな雰囲気を前面に出していた。ヤンチャな服が実はサステナブルだったというギャップを楽しんでいるようであり、どう作られたかではなく何を作りたかったかという本質を大切にしたコレクションだった。日本のブランドから抜きんでる創造性とその伝え方が注目されて、パリコレの”その先”、が今後の分かれ道となりそうだ。

今シーズンのパリのトピックス

イギリスを代表するブランドである「バーバリー(BURBERRY)」がパリで発表して注目された。「ユニバーサル パスポート」と名付けられたコレクションは砂漠のような東ロンドンにあるミレニアムミルズで撮影された。「このプレゼンテーションは、自己表現の力と美しさ、固定観念からのエスケープ、そして共に集うことをテーマとしている」とチーフクリエイティブオフィサーのリカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)。ブランドのアイコンでもあるトレンチコートはノースリーブの新シルエットとなり、ラグランスリーブの切り替えでカットされたコートに関してはエプロンのような雰囲気さえある。定番アイテムに感じられるデザイナーの反抗心と冒険心だ。今後の発表もどの場所でどのタイミングで行われるのかはティッシの気の赴くままといったところか。

ベスト1
「ディオール(DIOR)」
キム・ジョーンズ(Kim Jones)が手がける「ディオール」は、ムッシュディオールが1947年のデビューコレクション成功を祝して旅行したアメリカで、最初に赴いたテキサスの地が着想源。テキサスの雄大な渓谷と巨大な砂漠、そしてムッシュの愛したローズガーデンを会場にして、広大さと優美さが同居する空間を作った。また現代的な解釈の助けとなったのが、コラボレーションをしたテキサス出身のラッパーでレコードプロデューサーのトラヴィス・スコット(Travis Scott)だ。キムとトラヴィス、二人それぞれの文化とアイデンティティを融合し、モーブやペールブルーなどかつてのクチュールドレスにも用いられたサンブリーチカラーの美しいパレットも相まって、甘美で情緒的な作品を作り上げた。細身のテーラードに落ち感のあるしなやかなフレアパンツはエレガンスで、ハンドペイントをはじめ新鮮なグラフィックやディオールメンズ初となるファインジュエリーでは挑戦も忘れない。キムは交友関係や見聞の広さから多彩なアーティストとのコラボレーションも多いが、最終的に「ディオールであること」への落とし込みが非常に上手いデザイナーだと思う。

ベスト2
「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」
「Greetings From Antwerp」と題された今回。ノンシャランという言葉がよく似合う、リラックスしたソフトなムードのアイテムで構成された。各ピースにプリントされた写真はアントワープの象徴的な街並みからドリスのデザインチームがドラムの演奏やプールサイドでリラックスしている姿をスマートフォンで撮影したプライベート写真をコラージュしたものだ。かつて気ままに過ごしていた”あの時”を身に付けることでまた一緒に楽しめる日がくるだろうというドリスの思いが込められている。アントワープ市内 56 箇所の象徴的な場所を舞台に、モデルが周囲の景色に調和しながら撮影した映像は、それを観ているだけでも心が和やかになる。ドリスからの優しい気遣いに心が解きほぐされるコレクションだった。

ベスト3
「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」
冒頭の映像や会場に書かれた「第七回国際発表大会」とい文字(ヴァージル・アブローが手がけて7シーズン目を迎える)からは独特のジャポニズムな雰囲気が漂い、一瞬危うい空気が私の中では流れたのだが(いわゆるかつてのハリウッド映画的日本の解釈で描かれるのではという)、実際コレクションピースが登場するとその空気は一掃された。レイヴファッションのアイコンであるトラックスーツとテーラードスーツを同等に並べる、もしくはミックスすることで、特定の衣服に結びつくジェンダーや社会的な偏見の払拭のための中和を試みた。もちろんその中には和の要素も含まれていたが、このブランドならではのクオリティとラグジュアリー感で多種多様な文化やアイテムをミックスすると、どのテイストも同等の熱量に引き上げられていく。その辺りでヴァージルのクリエイションの高さに驚かされた。

コロナ禍でのコレクションがスタートして1年。ヨーロッパではメンズコレクションがスタートする ギリギリのタイミングでロックダウンも解除され、フィジカルでの発表に踏み切ったブランドも増えた。こうした動きを見ると気持ち的にもファッション界の状況は好転し始めてきたように感じる。

 

 

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