ジョナサン・アンダーソンによる「ロエベ」はファッションショーを取りやめるという発表を新聞紙面で行った(正しくは新聞と共に配布される別冊新聞)。3月5日の各国の朝刊「ル・フィガロ」「ル・モンド」「ザ・タイムズ」「エル・ムンド」「ニューヨーク・タイムズ」に加え、日本では朝日新聞に挟み込まれていた。デジタルメディアではなくあえての印刷物にはジョナサンの思いとシーズンのイメージに加え、アメリカの小説家ダニエル・スティールの未発売作品からの抜粋が掲載されていた。日々のニュースと共にそこに収められた「ロエベ」の最新情報は一枚一枚めくる日常的な行為と、新聞ならではのざらついた写真の質感にデジタルでは得られない感覚を覚えた。最新作は日常に彩りを与える美しい色合いと非日常的なフォルムが混ざり合い、「だからファッションって楽しい!」と思わせてくれたシーズンだった。
●ベスト2「MIU MIU」
「ミュウ ミュウ」のランウェイは広大なアルプスの雪山。このロケーションは群を抜くスケール感だった。そこにパステルカラーを纏ったモコモコのスキーウエアが登場。昔懐かしいかぎ針編みのニットをはじめ、雪の中で「ぬくもり」をキーワードに集められたアイテムが満載だった。キャミソールドレスには思わずモデルの体調を心配しましたが、ラストはキャンプファイヤーのように焚き火に当たっていたのでひと安心。brave heart(勇敢な心)と題したコレクションは可愛さとは裏腹に大自然の中でもたくましくその先に向って行ける人であって欲しいというミウッチャからの応援メッセージだろう。
●ベスト3「CHANEL」
「シャネル」は伝説的なクラブ「カステル」を舞台に大人の夜遊びウエア。煌びやかなミニドレスやツイードのセットアップを、リゾートウエアや軽いファーアイテムと合わせて小粋にまとめているのが今の気分にマッチしている。ヴィルジニー・ヴィアールはメゾンの伝統を軽やかに仕上げるのが上手いデザイナーだ。
●ベスト4「DRIES VAN NOTEN」
ベルギーやパリ・オペラ座のダンサー達がドリスの服を着ると、彼らが表現する感情に呼応するように、服が歪み、戯れ、重なり、躍動する体がデザインのひとつになったような錯覚を覚える。こういうパッションこそコロナ禍において足りなくなった感情だったのだと再確認する。
●ベスト5「JIL SANDER」
ルーシーとルーク・メイヤーが手がける「ジル・サンダー」は、シンプルでいて大胆さも兼ね備えた魅惑的なコレクションだった。一見すると派手さはないけれどドキッとさせれられる素材の組み合わせや色使い、アクセサリーの使い方など、個性の出し方の新たな引き出しを開けた気がする。