
第67回グラミー賞が2月2日にロサンゼルスで行われた。ビヨンセ(Beyoncé)やケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)、サブリナ・カーペンター(Sabrina Carpenter)など大物が顔を揃え、最優秀新人賞はチャペル・ローン(Chappell Roan)が受賞。受賞者以外もビアンカ・センソリ(Bianca Censori)の衣装やジェイデン・スミス(Jaden Smith)の被り物など話題は絶えない。しかし、今回注目したいのは、ザ・ウィークエンド(The Weeknd)のサプライズパフォーマンスだ。
「グラミーは変わった」 グラミー賞を主宰しているレコーディング・アカデミーのCEOハーウェイ・メイソン・Jr.(Harvey Maon Jr.)の象徴的なセリフの後、ザ・ウィークエンドがステージに登場。「クライ・フォー・ミー(Cry For me)」と「タイムレス(Timeless)」の2曲を披露。これはどちらも1月31日に配信を開始した最新アルバム『ハリー・アップ・トゥモロー(Hurry Up Tomorrow)』に収録されている楽曲だ。
スーパーボウルのハーフタイムショーも大成功させ、今やR&Bの頂点に君臨しているといっても過言ではないザ・ウィークエンド。彼の知名度と人気から、登場すれば話題に上がるのは当然だが、グラミー賞でのパフォーマンスは少し違った意味を持つ。ジャンルや人種の偏り、不透明な選考方法などが批判されることも多いグラミー賞。ザ・ウィークエンドも以前からグラミー賞の体制を批判的に見ているアーティストの一人だった。彼が2020年に発表したアルバム『アフター・アワーズ(After Hours)』とシングル「ブラインディング・ライツ(Blinding Lights)」は世界的にも高く評価され、大ヒットを収めた。しかしその年のグラミー賞ではノミネートすらされないという事態を受け、レコーディング・アカデミーの腐敗を自身のSNSで言及し、ボイコットの姿勢をとっていた。
グラミー賞の選考について話す上で、避けて通ることができないのが秘密委員会の存在だ。グラミー賞のノミネート作品を決めるプロセスはいくつかに分かれているが、候補曲の中から最終的にノミネート作品を決定するのが秘密委員会だ。彼らの身元は明かされておらず、ザ・ウィークエンドはもちろんエミネム(Eminem)やフランク・オーシャン(Frank Ocean)などの大物アーティストもその存在意義を以前から疑問視していた。この状況を受け、レコーディング・アカデミーは2021年5月、秘密委員会を廃止。また2024年には一般会員の人種や性別の割合を大幅に変更することを発表し、多様性をアピールした。
少しずつ改革が進むグラミー賞。今回のザ・ウィークエンドのパフォーマンスは彼とグラミー賞の和解を表すと同時に、透明性が担保されつつある現在の状況を世間に発信する効果もあるだろう。グラミー賞を批判し、トロフィーを自宅のドアストップとして使用していることをインスタグラムをストーリーに投稿したあのドレイク(Drake)もグラミー賞に顔を出す日が来るかもしれない。