いよいよ開催まで1カ月を切った9月27日、第36回東京国際映画祭のラインアップ発表記者会見が開かれ、本映画祭の上映作品が明らかとなった。
10月23日から11月1日まで開催予定の第36回東京国際映画祭は、コロナ禍に開催された2022年の第35回に比べ、作品数は174本から219本に増加、各国から来日する映画人の数が6倍以上増加するなど、コロナ以前の映画祭の姿を取り戻しつつある。今年審査委員長に選ばれたヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)をはじめとして、香港の俳優トニー・レオン(梁朝偉)や中国の映画監督であるチャン・イーモウ(張芸謀)など豪華なゲストが本映画祭のために来日する。上映作品のラインアップとしては全体の約6割がアジア映画となっており、アジアで開催される国際映画祭としての立ち位置を意識したセレクトとなっている。今回は部門を問わず、注目の作品を3つ紹介していきたいと思う。
①『PARFECT DAYS』(2023年、日本・ドイツ)監督:ヴィム・ヴェンダース
まずは本映画祭のオープニング作品に選ばれた『PERFECT DAYS』だ。世界的に活躍する16人のクリエイターや建築家が、東京・渋谷区にある公共トイレを新たなデザインで改修するプロジェクト「THE TOKYO TOILET」のトイレを舞台に、俳優の役所広司演じる公共トイレの清掃員、平山の日常を描くドラマ映画である。『パリ、テキサス』や『ベルリン・天使の詩』などを世に送り出し、世界中で高い評価を得る名匠ヴィム・ヴェンダース監督の最新作で、今年の5月に開催された第76回カンヌ国際映画祭では最優秀男優賞を受賞、今まさに大注目を浴びる作品だ。ヴィム・ヴェンダース氏は、自らが敬愛する小津安二郎に捧げたドキュメンタリー『東京画』を制作するなど、親日家としても知られており、彼が映し出す”日本”の精巧さは国内でも高い評価を得ている。彼によって繊細に描き出される”日本”は、彼の日本や日本文化への愛と造詣の深さを存分に表している。アジアの映画祭である本映画祭において、この作品がオープニングに選ばれたことに違和感を覚える人も少なくないようだが、アジアに対する深い尊敬を体現した作品がこの重要な立ち位置にあることはまた新たな、大きな意味を持つように感じられる。上映は23日に行われる予定。
②『哀れなるものたち』(2023、イギリス・アメリカ・アイルランド)監督:ヨルゴス・ランティモス
次に紹介するのは、日本公開前の話題作を集めたガラ・セレクション部門から『哀れなるものたち(原題:Poor Things)』。『ラ・ラ・ランド』でお馴染みのエマ・ストーン( Emma Stone)が天才外科医によって死から蘇った若い女性ベラを演じ、彼女が世界中を冒険する中で成長していく姿を描いた作品である。監督は『女王陛下のお気に入り(原題:The Favourite)』などを手がけたギリシャ出身の映画監督ヨルゴス・ランティモス(Yorgos Lanthimo)である。彼の作品には皮肉の効いたストーリーとそれに相反するポップな世界観が融合したものが多く、数々の映画祭において賞を獲得している。本作も9月に開催された第80回ベネチア国際映画祭において見事、金獅子賞を受賞した。SFチックで一見非現実的に思われる世界観だが、その奥には現代に生きる私たちにも通じる皮肉めいたテーマが潜んでいる。日本でも1月からの公開がすでに決定しているが、いち早く本作を楽しめるこの貴重な機会を逃すのはもったいないであろう。本作の上映は10月28日に行われる予定で、チケットは10月14日から東京国際映画祭公式ホームページにて販売開始。
『烈火青春 4Kレストアディレクターズカット』(1982年、香港)監督:パトリック・タム ※本映画祭では2K上映
最後に紹介するのは1982年に公開されたレスリー・チャン(張國榮)が主演の香港映画『烈火青春』である。本作は香港ニューウェーブにおける主要人物であり、ウォン・カーウァイ(王家衛)の師としても知られるパトリック・タム(譚家明)の監督作品で、道に迷い、人生の意味を探し求める無軌道な若者たちを描いている。悩みを抱え、生きることに苦悩する若者たちの姿が鮮やかな色彩の映像を通じて対照的に描かれる様は、私たちが体験したことのない独特の雰囲気を纏う80年代の香港の情景をどこか思い起こさせる。今年はレスリー・チャン没後20年を迎える年ということもあり、日本国内でも彼の代表作である『覇王別姫』の4Kレストア版が多くの映画館で上映された。今回ワールド・フォーカス部門において、レスリー・チャンの初期の代表作であり、1980年代香港ニューウェーブ映画の金字塔と言われる本作が選ばれたのは決して偶然ではないだろう。衝撃の死から20年たった今でもその甘いルックスと圧倒的演技力が生み出す、なんとも魅力的な雰囲気で世界中に、そして幅広い年代にファンを持つレスリー・チャン。ぜひこの機会に彼の初期の主演作を、大きなスクリーンで存分に味わいたい。本作は10月29日に上映予定で、チケットは14日から公式ホームページにて販売開始。