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ファストリ柳井正会長の「正しさ」とは一体何なのか?

Apr 9, 2021.三浦彰Tokyo, JP
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ファーストリテイリングの第2四半期(2020年9月1日〜2021年2月28日)決算が発表になった(記事別掲)。全世界的コロナ禍にもかかわらず、好調な業績のために、記者発表に同席した柳井正会長兼社長の弁舌も滑らかでいつもの「グローバル化こそこれからの企業成長の鍵」論を展開している。

さらに山口県宇部市の小さな紳士服店がここまで来ることができた理由はただ一つ。「正しいと思ったことを勇気を持ってやり抜く。状況が厳しくてもめげない。諦めない。そういった精神があったこと。これが一番の要因です」と柳井会長。

この「正しいと思ったことを勇気を持ってやり抜く」という言葉に誘発されたわけでもないだろうが「新疆地区の綿花生産でウイグル人に強制労働をさせているのが取り上げられている。この新疆綿に対するスタンスを聞かせて欲しい」という質問が朝日新聞、日本経済新聞、ブルームバーグからあった。

これに対して、柳井会長は、「当然、全部の工場に関して、あるいは綿花の生産に関して監視をしています。そういった問題があったら即座に取引停止しています。それ以上は、人権問題というより、政治問題なので、ノーコメントです」。

ファーストリテイリング社の労働環境や人権に関する監視体制がどの程度徹底されているのかは分からない。また人権問題でなく政治問題だという解釈には釈然としないものがある。人権問題が例えば米国と中国の政治的な駆け引きに使われているということなのか。

「実際問題ファーストリテイリングとしてこの新疆で作られた綿花を実際に使っているのか?また取引があったとしたら今後どう対応されるのか?」という質問が続いた。

「そういう政治的な質問にはノーコメントです。我々は常に政治的には中立的な立場でやっていきたいというふうに思っています。人権は非常に大事なことです。それに関しては、我々はやるべきことは全てやっています。我々は政治的に中立なので、これ以上の発言は政治的になりますのでノーコメントです」と柳井会長。

この新疆綿を使わないことで人権問題に抗議を表明した「ナイキ(NIKE)」と「H&M」に対しては中国国内でネット通販サイトが「H&M」を排除したり、不買運動が広がっている。こうした「ナイキ」や「H&M」の抗議が政治的だとはとても思えない。逆にこれを排除しようとする一連の動きはもちろんきわめて政治的だと思われるのだが。

柳井会長はサステイナビリティに対してはこう語っている。「自分の得になるとか、会社が儲かるとかいうことではなく、地球や人類にとって正しいことは何かを考えて行動する。日々の判断をそういう基準で行うということです。今の世界は誰もが自分の損得、目先の利害だけを考えて、本気で人類の将来のことを考えようとする人があまりにも少ない」と嘆いている。ここでも柳井会長は「正しいこと」という言葉を使っている。とにかく頑なに新疆ウイグル問題についてはこの「正しさ」への言及がぼやかされているのは非常に残念だ。

柳井会長の言う「正しい」とはあくまでも消費者にとっての「正しさ」ということらしい。今回自ら言及した4月から実施を義務付けられている総額表示(消費税込みの価格表示)では、今までの税抜き価格をそのまま3月12日から税込み価格として「ユニクロ(UNIQLO)」「GU(ジーユー)」で使用している。実質9%の値下げになり、批判もあった。「お客様にとってどのような方法が最も便利でわかりやすいのかという基本的な観点から決めたものです。短期的に見ると減収の要因になるとの懸念はありましたが、お客さま第一の基本姿勢をしっかりと守ることで、長い目で見ればより多くのお客さまに我々のファンになっていただき、たくさんのお買物をしていただけると考え、最終的に私の判断でこのように決定しました」と答えている。

消費税が8%から10%へ引き上げられる時も柳井氏は反対を表明していたからそのことも今回の実質値下げにはあったのかもしれない。最後に「私の判断で決めた」と語ったのは、社内でもかなりの反対があったからではないかと思わせる。これが吉と出るか凶と出るのかはちょっと判断がつきかねる。今年8月決算に注目しよう。

もうひとつ柳井会長の発言で注目すべき発言があった。「2030年までには世界で50億人が中産階級になります。その半数以上がアジアです。今まで以上に本格的にアジアに進出していきます。出店のペースを上げ、アジアで圧倒的なナンバーワンになります」。この数字の根拠がなんなのかわからないし、中産階級というのは、アジアで「ユニクロ」や「GU」を買えるような人々ということなのだろうか。「H&M」の成長が鈍り、世界第2位のアパレル企業になることはすでに射程に入っているが、2030年までにはトップの座にいることを確信している口ぶりだった。

 

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