人事大異動の発端になったのは、エディ・スリマンの「CÉLINE」就任だ。彼は2000年から07年まで「Dior Homme(ディオール オム)」でクリエイティブ・ディレクターを務め、その後一度LVMHを離れ、2013年プレスプリングから2016-17秋冬まで「SAINT LAURENT(サンローラン)」のクリエイティブ・ディレクターとしてカリスマ的人気を博した人物。
「CÉLINE」では2019年春夏からウィメンズウエアに加えてメンズウエアもスタート、さらに自身初となるオートクチュール、そしてフレグランスまで統括し規模を一気に拡大する。絶大な支持のあったフィービーが去った同メゾンにどのような変革をもたらすのか注目が集まっている。
前「Chloé」クリエイティブ・ディレクターのクレア・ワイト・ケラーの「GIVENCHY」就任は適任と言っていいだろう。意外にもメゾンの女性デザイナー就任は彼女が初めてだ。オートクチュール、ウィメンズ、メンズのレディトゥウェア、そしてアクセサリーでクリエイティブを統括する。
もともとクラシック&エレガントなスタイルがシグネチャーのブランドなので、これまでリカルドが展開してきたトライバル風味のコレクションは、ブランドに刺激をもたらしたかもしれないが、クレアの就任によって「GIVENCHY」に本来の軸が戻ったような感がある。就任後まもなくイギリス王室のロイヤルウェディングでドレスが着用され、その後もメーガン妃御用達ブランドになりつつあり、話題性にも事欠かない。
最も話題になったと言っても過言ではないのがヴァージル・アブローの「Louis Vuitton」メンズ就任だ。きっかけは2006年にカニエ・ウェスト(Kanye West、41歳)と経験した「FENDI(フェンディ)」でのインターンで、当時同社CEOだったマイケル・バーク(Michael Burke)現「Louis Vuitton」会長兼CEOがすでに2人のインターン生に目をつけたというのが発端。この人事はLVMHの黒人富裕層への強烈なメッセージと受け取れる、今後のファッション業界を象徴する出来事だろう。
アメリカは10年後には黒人とヒスパニックが人口の過半数になると言われていて、ラグジュアリー・ブランドも無視できない存在。、パトリック・ケリー(Patrick Kelly、享年35)やウィリー・スミス(Willi Smith、享年39)が活躍した80年代後半のブラックパワーの盛り上がりと現在は似た雰囲気がある。
先日コラボレーション満載のデビューコレクションを披露したキム・ジョーンズの「DIOR」で注目したいのは、同じくジュエリーデザイナーに就任した「AMBUSH(アンブッシュ)」デザイナーのユーン・アンだ。ビッグメゾンでアジア人が抜擢されたのは画期的な出来事で、今年のLVMHプライズは日本の「DOUBLET(ダブレット)」の井野将之(Masayuki Ino、38歳)・デザイナーが受賞しているし、藤原ヒロシ(Hiroshi Fujiwara、54歳)は「Moncler(モンクレール)」のコラボパートナーに選ばれた。ラグジュアリー領域でのアジア人の躍進に期待したい。
「BERLUTI」はハイダー・アッカーマンがわずか3シーズンで去ることになった。こちらも「GIVENCHY」同様、ブランドのスタイルを考えると後任のクリス・ヴァン・アッシュが妥当な人事だろう。
LVMH以外のデザイナー移籍では、「BURBERRY」のリカルド・ティッシ就任が大きな話題になった。「GIVENCHY」でリカルドとタッグを組んでいたマルコ・ゴベッティ(Marco Govvetti、58歳)現「BURBERRY」CEOが彼を引き入れたのではないかと言われていて、またもやクラシックなブランドを手がけることになったリカルドが、チェックとトレンチ以外に活路を見出せていない「BURBERRY」にどんな変革をもたらすのか必見だ。
今年前半には業界で大きな存在感を放った人物の訃報もあった。3月10日の「GIVENCHY」創業デザイナーのユベール・ド・ジバンシィ(Hubert de Givenchy、享年91)の死には多くの人が哀悼の意を表した。元オートクチュール・デザイナーのフィリップ・ブネ(Philippe Venet、89歳)が彼の長年のパートナーだったというのは驚きだった。5月5日(日本時間6日)に自殺という悲劇的な最期を迎えた「KATE SPADE NEW YORK(ケイト・スペード・ニューヨーク)」創業者兼デザイナーだったケイト・スペード(Kate Spade、享年55)については未だ様々な憶測が飛び交っている。ジバンシィもケイトも自身の名を冠したブランドを売ったという点で共通しているが、その結末は幸福なものとは言えなかったようだ。
まるで渡り鳥のように移動を繰り返す、このデザイナー移籍劇はいつまで続くのか、ファッション業界もそろそろもっと新鮮な話題が出てきて欲しいものである。