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トム・フォード社買収報道をめぐる「ほう」と「え?」

Nov 16, 2022.三浦彰Tokyo,JP
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写真:「トムフォード公式インスタグラムから」

『ウォール・ストリート・ジャーナル(以下、WSJ)』によれば、フランスのラグジュアリーブランド・グループのケリングは、ファッションブランド「トム・フォード(TOM FORD)」買収に向けて交渉を進めているという。買い手候補にはケリングの他にLVMHや「トム・フォード」の化粧品のライセンス先であるエスティーローダーなども名前が上がっており、ケリング以外になる可能性もあるという。『WSJ』は、8月にエスティーローダーがトム・フォード社全体の買収『ウォール・ストリート・ジャーナル(以下、WSJ)』を視野に入れた交渉を行なっており、その金額は30億ドル(約4380億円、以下1ドル=146円換算)だったと報じている。

このニュースを読むと、「ほう」と「え?」の感想が浮かぶ。ひとつはトム・フォードもそんな歳になったのかという感想。トム・フォードは、1961年8月27日生まれだから61歳。日本流ならまさに「還暦」である。ヤングリタイアが決して珍しくないアメリカ社会なら、CFDA(アメリカ・ファッション・デザイナー協議会)会長も務め(その後任は2023年1月からトム・ブラウン)まさに功なり名を遂げたトム・フォードだから自社の売却を考えてもおかしくはない。すでに2本の監督作品があるトム・フォードが本当にやりたいことは映画づくりだろう。そうしたことを考えると生涯であと5本の映画づくりをするとなると体力も考えて、ファッションビジネスから足を洗うにはよいタイミングと判断したのではないだろうか。

そして、「え?」の感想は、買い手の有力候補がケリングである点だ。周知のように、トム・フォードは1994年に「グッチ(GUCCI)」のクリエイティブ・ディレクターに就任して、低迷を続けていた「グッチ」をLVMH傘下の「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」に並ぶラジグジュアリーブランドに変貌させ、売り上げを2億3000万ドルから30億ドル(2003年)までにした立役者だ。その後グッチ社はLVMHの買収ターゲットになってしまうが、そこにホワイト・ナイトとして登場したのがPPR(ケリングの前社名)だった。PPRによって、LVMHの買収の魔の手から逃れることができたものの、その後トム・フォードとPPRのオーナーであるピノーファミリーとはソリが合わずに、トム・フォードは盟友でありCEOのドメンコ・デソーレと共に2004年グッチ社を退社しているのだ。トム・フォードは売却先に因縁浅からぬケリング社を選ぶのだろうか?売る方も売る方なら、買う方も買う方だ。まあそんなことは関係なく双方ともビジネスライクにことを進めているのだろうか。この辺りが日本人の私にはとても理解できずに「え?」なのである。

もうひとつの感想は、買収金額である。上場していないトム・フォード社の年商は、wikipediaによれば6億5400万ドル(約954億8400万円)だ。その買収価格が30億ドル=4380億円だというのは、「え?」と思われるほどに高額だ。最近の相場ということなら、LVMHが「ダナ・キャラン」「DNKY」を保有するダナ・キャランインターナショナルをG-Ⅲアパレルグループに売却した価格が6億5000万ドル(約949億円)だったことを考えても、ちょっと高過ぎるのではないか。もう1社、アメリカ人デザイナーで現在マイケル・コースをクリエイティブ・ディレクターに擁するカプリ・ホールディングスの例がある。こちらは上場企業でその時価総額は65億7700万ドル(約9602億4200万円)であるが、どうもこちらの方を基準にした買収価格であるようだ。

「トム・フォード」というブランドは、万が一トム・フォードが死去したとしても、現在の香水とアイウェアという分野での圧倒的人気を考えると、ラグジュアリーブランドとして生き残るという評価が既にできているということなのだろう。

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