オリヴィエはファッション専門家やパフォーマンス・アーティストとして、業界で抜きん出た才能を持つファッションデザイナー達の展示を140以上も手がけており、ブランドの世界観や歴史、意義を表現してきた。以前にLe Palais Galliera(パリ市立モード美術館)の館長を務めており、オート・クチュール展やファッションに関係するイベント、パフォーマンスなどの展示に対して権威ある人物であった。昨年「ジェイエムウエストン」のアーティスティック・ディレクターに就任し、今年1月にはブランドのクラシックアイテムである「180シグニチャーローファー」の17通りのデザインを、パリの「Café de l’Epoque」で展示した。パリのカフェウェイターはその昔、職人が無料で靴の修理をしてくれることから「ジェイエムウエストン」のローファーを愛用していたと言われており、そこからインスピレーションを得て展示が開催された。20分間のパフォーマンスではウェイターの制服を着たモデル達が17型のモデルを運ぶという演出が行われた。
「ジェイエムウエストン」青山店は、オリヴィエの幼少期の記憶にある博物館と工場、その境界線上にある図像学を新ブティックのコンセプトとして取り入れ、明るく開放感のある空間に生まれ変わった。レセプションから渡された鍵は地下のアトリエスペース通ずる鍵をイメージして作ったもの。今回のイベントと1月のパリでの展示は異なり、「ジェイエムウエストン」のスタンプマークが壁や紙の上に押されていてアトリエのような空間が作り上げられていた。壁やガラスショーケースにはオリヴィエが長年コレクションしてきたキスコレクションや来場者が残したキスマークがちらほら置かれていた(自分の違和感があるキスマークも残してきた)。紙ナプキンにはオリヴィエが自ら書いた詩がプリントされており、同じく「180シグニチャーローファー」にもプリントされたデザインもあった。オリヴィエのクリエイティビティと、熟練の職人達による伝統的技術を用いて完成したベリースペシャルオーダーモデルを展開した。
17種類のバリエーションには、黒い革に白いチョークでアウトラインが描かれたものや、新聞のように「ジェイエムウエストン」の文字がプリントされたデザイン、クリストバル・バレンシアガ(Cristobal Balanciaga)にインスパイアされたカラフルな装飾ステッチ、まるでワニ皮を使用しているようなステッチのデザインなどが登場。オリヴィエの長年の経験や、あらゆることに触発されたものを垣間見ることができた。皮肉と遊び心と敬意を全作品が表しており、過去への郷愁を感じられた。彼に尋ねてみた。「今のファッション業界の中で、展示やコラボレーションをしたい方はいらしゃいますか?」「特に誰もいません。そして“現在”のファッションを理解することができません」。館長という立場からアーティスティック・ディレクターに転身した彼だが、「ジェイエムウエストン」からアプローチを受けた当時もしばらく悩んだという。それでも「ジェイエムウエストン」は説得を続けたのだ。
ラグジュアリー・ブランドの定義は確かに変わったが、彼のような人物がファッション業界にまだいる限り、これからの10年はもっと有望かもしれない。オリヴィエは今年か来年に、ファッション業界の歴史本を出版する予定だ。