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「デコルテ」欧米市場開拓の立役者に聞くローカライゼーション戦略

Aug 13, 2018.セブツー編集部Tokyo, JP
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KOSÉ欧米事業部 事業開発課 課長 小杉昌輝氏

2018年3月期の売上高が前年比13.7%増と5期連続で過去最高を更新したKOSÉ(コーセー)。中でも北米市場は前年から12.2%増収と一番の伸びを見せた。中華圏や東南アジアからのインバウンドバブルに甘んじることなく、欧米市場の開拓を着々と進めている。「DECORTÉ(デコルテ)」を、2016年2月より米高級百貨店Saks Fifth Avenue(サックス フィフス アベニュー、以下Saks)の北米9店舗に展開し、今年の5月にはニューヨーク本店に正規カウンターを導入した。同社のグローバル戦略の状況と今後について、欧米事業部事業開発課の小杉昌輝(こすぎ まさき)氏に話を聞いた。

ー 今年から事業部が地域ごとに分かれましたが、海外事業には以前から携わっていましたか?
入社して15年間は研究所にいて、「DECORTÉ」をはじめとする各ブランドに向けたスキンケアからメイクまでの商品開発に携わっていた。その頃から、世界にはもっと面白い技術や魅力的なものを作れるノウハウがあるのではと思い、アジアからヨーロッパ、北米、南米と世界各地にある協力会社の工場や研究所を訪れた。そこで日本にまだない技術を見つけ、自社でうまく採用できるようにコーディネートするといった、本社にいながら世界の技術と研究所双方の技術を融合する仕事をしていた。元々がこういったスタートなので、営業畑の人とは違う切り口から製品について伝えることができる。海外のイベントでお客さまに実際に触ってもらい、品質を伝える際にも、開発背景や技術的な面についてもお話をするととても興味を持ってもらえて、製品の深い部分まで伝わるのが嬉しい。

ー 出店しているSaks Fifth Avenueでの反応はどうですか?
お客さまの中には「DECORTÉ」というブランドを、まだご存知ない方もいらっしゃるが、実際に製品に触れていただくとタッチの瞬間の感激や、浸透感、仕上がり、翌朝の肌の違いといった、私たちが得意とする品質、効果の部分が、欧米のお客さまにも伝わっていると感じる。欧米の方で、初めて「DECORTÉ」に触れ、ファンになり、リピーターになってもらえることが何より嬉しい。ニューヨーク店のカウンターをリニューアルした際に開催したイベントは、ワークショップ形式で”DECORTÉ体感”をテーマにしたもので、Saksからも大変好評だった。今後もこうしたイベントをやっていきたいという良いお話もいただいている。

ー 限られた店舗数の中で、顧客接点はどのように創出していますか?
ブランドのグローバルアンバサダーにKate Moss(ケイト・モス)氏を起用したことが非常に追い風となっている。欧米で絶対的な知名度があるので、ブランドをあまりご存知ない方でも売り場で彼女のビジュアルを見ると興味を持ってくれて、それが製品を試していただくきっかけの一つになっている。
彼女自身「DECORTÉ」をとても気に入っていて、ブランドのインスタグラムなどを通して彼女が普段から愛用しているシーンをアップしている。こうして世界のお客さまに発信することで、店舗だけでなく様々なところで顧客接点を創り出している。Saks出店の際にも、彼女がアンバサダーというところから興味を持ってもらえた。ロンドンのSelfridges(セルフリッジズ)でのオープンなど、主要なローンチイベントにも参加してもらうことで、情報の発信、拡散に貢献してもらっている。
アメリカは国土が広くECが発達していて、オンラインで購入される方も多い。ブランドについて伝えるだけでなく、オンラインでお客さまにきちんと届けるシステムを整えることも肝要だ。

ー 「DECORTÉ」VI-FUSIONについて製品開発時に工夫された点を教えてください。
欧米と日本では、気候、ライフスタイル、化粧習慣や美の価値観が異なる。日本の商品をそのまま持って行って、これが私たちの「DECORTÉ」ですとアピールしてもなかなか伝わらない。絶対に譲れない基本的な品質や技術、お客さまに対する想いや姿勢は変えずに、アプローチの仕方を一部欧米向けにアレンジすることが必要。
例えば、日本はクレンジング、洗顔、乳液、化粧水、続いて美容液やクリームという俗に言うシステム使用が基本だが、海外の発想は全く違う。クレンジングでメイクを落としてトナーでそれを拭き取り、その後に美容液などで潤し、クリームで仕上げるというシンプルなステップ。製品の選び方も、日本人はすすめられたものを素直に受け入れる傾向にあるが、欧米の方は自分の中にしっかりとした意思やこだわりがあり、自分の好きなもの、欲しいものはこれ、と自ら選ばれていく。環境面でも、日本は高温多湿、欧米は非常に乾燥する気候なので、同じ保湿機能でも求められているレベルが異なる。日本のナイトクリームは欧米では充実感が足りず、デイクリームとナイトクリームの両方をたっぷり使って肌を潤したいので、基本の品質設計が違ってくる。「DECORTÉ」の技術を使って、使用方法や商品のラインナップと品質設計を上手く組み合わせ、欧米の方に満足いただけるよう調整している。
メイクアップでは代表的なものとしてKate Moss氏がとても気に入っているリップパレットがあるが、これも日本とは品質設計が異なる。ツヤのある可愛い系のピンクが日本では人気だが、欧米では赤や濃いめのベージュなど発色の強いものが好まれる。ベースの顔立ちがハッキリされている方が多いので、それに負けないメイク効果のある品質を設計し、美の方向性を欧米の方に響くようにフィットさせ、気に入っていただけるように心がけている。

ー これまで反響の大きかった企画は何ですか?
Kate Moss氏の出身であるUKで行った、高級百貨店Selfridgesのオープニングイベント企画。プレスの方や有名インフルエンサーの方々向けのオープニングパーティに、Kate氏ご自身が登場し、ブランドに対する想いをコメントしてくださったインパクトは非常に大きく、その興奮をその場からSNSで世界発信されたゲストの方も多数見受けられた。また、実際のカウンターにサプライズで登場したことは、100年以上の歴史を持つ同百貨店においても過去に例はなく、世界的な反響につながっている。欧米に向けた発信力のあるアンバサダーの活動に、メディアがうまく絡み、そのニュースをきっかけに、また次の展開オファーが来る等、今の時代ならではのPRの拡散・連鎖を創り出す事ができている。

ー SNSでの発信において「Tarte(タルト)」と協力する場面はありますか?
「Tarte」とは普段から交流しており、SNSの使い方に様々なヒントを得て有効活用している。一方で全てがSNSという事ではなく、ブランド毎にベストな情報発信が必要だと思う。「DECORTÉ」はお客さまとの信頼関係の構築がとても大切なブランドなので、ネットだけでなく、リアルコミュニケーションを大切にしながら浸透させていきたい。

ー 今後GINZA SIXのMaison DECORTÉのような、施術を組み合わせたサービスはお考えですか?
スパのような施術文化は古くから欧米に根付いており、SaksやSelfridgesなどの百貨店でもサービスを行っている。ヨーロッパではどちらかというと、街中にあるパフューマリーや化粧品専門店で施術が盛んに行われていて、日本と同様にお客さまと信頼関係を築くための、リアルコミュニケーションとして位置づけている。

ー AQはイタリアで発表会をされていましたが、欧州ではどのような展開をされていく予定ですか?
ヨーロッパ、特にイタリアやスペインは化粧品専門店が多く存在するが、お客さまとの接客スタイルが、当社が日本の専門店で培ってきたスタイル、ノウハウと共通するところが多くあり、市場に入りやすかったというのがある。イベントでも、お店のオーナーの皆さんとのコミュニケーションを大切にし、信頼関係を強めることができつつある。今後も、私たちの日本での経験を活かしながらエリアを広げていけたらと思っている。
また、通常の営業活動だけでなく、研究者目線の製品紹介などを織り交ぜていくとヨーロッパの方々にも伝わりやすいことがわかってきた。今年スタートしたフランス・リヨンの研究所も基礎研究だけにとどまらず、今後はヨーロッパ支店と同所の研究員が上手く連携して、営業的な視点と研究所だからこそできる紹介の仕方を融合し様々な可能性を広げていきたいと考えている。

ー 欧米でJ-Beautyはどう受け止められているいると感じますか?
ユニークなアイデアや発想の商品でブームになったアグレッシブなK-Beautyとは対照的に、J-Beautyは日本由来の素材や、安心・安全といった品質や中身の部分の印象を強く持たれていると認識している。一過性のブームに乗っかるのではなく、品質についてきちんと伝えながらも時代に合わせて柔軟に進めていくことが必要だ。
「DECORTÉ」のデビューは1970年で、50年前の当時から「本物の美に国境はない」というフィロソフィを打ち出したブランドだった。当時から創業者が目指していた、全てのお客さまに美の喜びを与え、世界に広めていくことを、今の時代に担えることにとてもやり甲斐を感じる。これからも「DECORTÉ」を世界で存在感のあるブランドに育てていくことに使命感を持って取り組んでいきたい。

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