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復帰した元「セリーヌ」のフィービー・ファイロの成功確率は30%未満!?

Jul 15, 2021.三浦彰Tokyo, JP
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「セリーヌ」のショーのフィナーレに登場したフィービー・ファイロ PHOTO:Michel Dufour

ファッション業界にスーパースターが戻ってきた!という感じでフィービー・ファイロ(Phoebe Philo、48歳)の3年半ぶりの復帰が報じられている。フィービーは2018年1月、約10年間務めたLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)傘下の「セリーヌ(CELINE)」のアーティスティック・ディレクター(AD)を家庭の事情を理由に退任していた。以後様々な復帰の噂があった。「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」「ディオール(Dior)」「シャネル(Chanel)」などのビッグブランドの後任候補にも挙がった。

今回の復帰はLVMHが少数株主になり、フィービーが株式の大部分を保有する新会社をロンドンに設立し、フィービーがクリエイションとプロダクションの全てをコントロールするブランドを発表するというもの。ブランド名など詳細は来年1月に発表されるという。

ポイントはLVMHのヒモ付きだということと、フィービー自身のブランドになること、本拠がパリではなくフィービーが家庭を持つロンドンという点だろう。ブランド名は十中八九「フィービー ファイロ」になるのだろうが、LVMHは、「クロエ(Chloe)」のクリエイティブ・ディレクターを辞して家庭に入っていたフィービーをスカウトして2010年に「セリーヌ」のADに抜擢した時に、「フィービー ファイロ」の商標を自社で保有していたのではないだろうか。今回少数株主として参加しているのはそのためだろうなどという下司の勘繰りをしてしまう。LVMHとフィービーはそれほど強い絆で結び付いていたとは思えないからだ。

最近フィービーと「セリーヌ」でタッグを組んでいたららつ腕仕事人のマルコ・ゴベッティ(Marco Gobbetti)がバーバリー(Burberry)のCEOを辞めて、サルバトーレ・フェラガモ(Salvatore Ferragamo)社のCEOに就任するというニュースが発表された。私の頭にまず浮かんだのはゴベッティは「フェラガモ」のADにフィービーを連れて来るのではないかという予想だったが、これはハズれた。今回の新会社の本拠がパリではなくロンドンであることは家庭との両立を優先するフィービーにとっては重要なポイントのようだ。

今回の復帰はタイムリミットぎりぎりというところだろう。業界を離れて3年半、消長が激しいこのファッション業界では、フィービーももうちょっとで「レジェンド」扱いになるところだったろう。

そもそも、このフィービーのファッション業界復帰にしても、一体どういう気持ちの変化や事情があるのかよく分からない。しかもフィービーが自分のブランドで表現したいというのだから、私には「え、それってどういうこと?」という感じなのである。

トム・フォード(Tom Ford)が「グッチ(GUCCI)」のクリエイティブ・ディレクター(CD)になり(1994年)、マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)が「ルイ・ヴィトン」のクリエイティブ・ディレクターになって以来(1997年)、自分の名前でブランドを立ち上げて成功したデザイナーというのは、せいぜい「マイケル コース(Michael Kors)」を数えるぐらいではないのだろうか。天才ラフ・シモンズ(Raf Simons)も自身のブランドで失敗した後は、「ジル・サンダー(Jil Sander)」「ディオール」「プラダ(PRADA)」と傭兵デザイナー稼業に身をやつしてしまった。ハナから自分のブランドを持とうとしないニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)、「ランバン(LANVIN)」というブランドとある意味心中してしまった故アルベール・エルバス(Alber Elbaz)などなど、大金をもらってラグジュアリーブランドのADやCDをやることで、自分の名前によって本当に自分のやりたいクリエイションを発信するというきわめて全うなデザイナー人生を捨ててしまうデザイナーがなんと多いことか。

その典型のひとりがこのフィービーであったように私は思っている。「クロエ」ではステラ・マッカートニー(Stella McCartney)の右腕として4年務めた後に、自身のブランドを立ち上げたステラの後任として「クロエ」のCDに就任。場外ホームラン級のバッグの大ヒットライン「パディントン」を生み出している。さらに出産を機に2005年に「クロエ」を去り、2010年に「セリーヌ」に復帰して「ラゲージ」「カヴァ」「トラペーズ」という歴史的ハンドバッグの大ホームランをかっ飛ばしたのだ。いずれもフィービーの恐るべき才能がなせるワザではある。しかし、これらは、「フィービー ファイロ」のブランド名で発表されていたらそんな大ヒットにはならなかったはずである。

こんな予想をしてもあまり意味はないが、今回の「フィービー ファイロ」ブランドの成功確率は30%未満ではないのだろうか。その失敗後、また彼女は傭兵デザイナーとして何かのブランドのADだかCDになるのではないだろうか。そんな予感がするのである。もちろん杞憂に終わってほしいのだが。1990年あたりから始まったラグジュアリーブランドの冷酷な傭兵デザイナーシステムというのはシグニチャーブランドを一掃するのなんかは朝飯前なのだ。

それとも、そうしたシステムすら打破するだけのことを、フィービーは今回のシグニチャーブランドでやってしまうのだろうか。なんとも興味深い「大物」のカムバックである。

 

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