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Global|冷酷・非情なるUSAデザイナー・ビジネス

Mar 18, 2019.久米川一郎Tokyo, JP
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「カルバン・クライン ジーンズ」2018年秋冬コレクションより

カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)社がコレクション・ビジネスからの撤退を3月6日に発表した。これは、チーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)のラフ・シモンズ(Raf Simons)の辞任のニュースの方が早かったので、CCOが辞任したのでコレクション・ビジネスを止めたように受け取られているようだが、もちろん違う。まずカルバン・クライン社がコレクション・ビジネスの撤退を決めたのである。いや正確には親会社のフィリップス・ヴァン・ヒューゼン(Phillips-Van Heusen、以下PVH)社がその撤退を決めたのである。デザイナーにとって、コレクション・ビジネスは最も重要な意味を持つものである。それは、そのデザイナーのその時点におけるファッションメッセージであるから、当然のことである。その最も重要な意味を持つコレクション・ビジネスを止めるというのだから、只事ではない。もちろんブランドの創業デザイナーであるカルバン・クライン(Calvin Klein、1942.11.19〜)は2003年、すでにデザイナーを引退していた。その前年に4億3000万ドル(約480億円*)で前出のPVHにその商標権など全てが売却された。考えてみれば、このあたりから、PVHには、コレクション・ビジネスやデザイナーというものをあまり重視しない方針があったのではないだろうか。カルバン・クラインの後継者は、ウィメンズは無名と言ってもいいフランシスコ・コスタ(Francisco Costa)、メンズはイタロ・ズッケーリ(Italo Zucchelli)であった。

現在「カルバン・クライン」ビジネスの中心的存在は「CK カルバン クライン(CK CALVIN KLEIN、以下CK)」。「CK」が誕生したのは1992年。ダナ・キャラン(Donna Karan、1948.10.2〜)がそのセカンドラインとして「ディーケーエヌワイ(DKNY)」を1988年に発売し、爆発的な人気になったのに追随する形で「CK」は生まれた。今後は「CK」ビジネスが名実ともに中核になる。ちなみにダナ・キャランは2015年に引退し、同時にコレクションラインの「ダナ・キャラン・ニューヨーク(Donna Karan New York)」も休止になった。コレクションラインの「ダナ・キャラン・ニューヨーク」とセカンドラインの「ディーケーエヌワイ」の商標権は2016年にLVMH(2000年取得)から、アメリカのアパレル会社のGⅢアパレルグループが6億5000万ドル(約721億円*)で取得していた。

さらに言えば、デザイナーズスポーツウェアの生みの親とも言われるアン・クライン(Anne Klein)のコレクションライン「アンクライン(ANNE KLEIN)」はすでになく、現在の「アンクライン」はセカンドラインの「アンクライン2」が名前を変えたものである。このあたりに、冷酷非情なアメリカのデザイナーブランドの基本的な考え方が表れているようだ。ヨーロッパのデザイナーブランドが、創業デザイナーの死去や引退によって、そのDNAを受け継いで、ラグジュアリー・ブランドになっていくのとは全く違う。典型的なライセンスビジネス、ロゴビジネスであることが理解できる。いずれにしても、アメリカの3大デザイナーブランドとして90年代を沸かせた、ラルフ・ローレン(Ralph Lauren)、カルバン・クライン、ダナ・キャランのうち、デザイナーが現役で活躍しているのはラルフ・ローレン(1939.10.14 〜)ただひとりということになる。そのラルフも今年はいよいよ80歳。引退も視野に入れた今後の戦略が練られているはずだ。

付言すると、ラルフ・ローレン、カルバン・クライン、ダナ・キャランに次ぐ米国デザイナーとして、トミー・ヒルフィガー(Tommy Hilfiger、1951.3.24〜)を忘れてはならないだろう。トミー・ヒルフィガー社の設立は1984年だ。2005年に英プライベート・エクイティのアパックス・パートナーズ(AP)に約1800億円で身売りした。さらにAPは30億ドル(約3300億円*)プラス株式で、この記事で何度も登場しているPVHにその権利を売却している。カルバン・クライン社が4億3000万ドル(約480億円*)、ダナ・キャラン社が6億5000万ドル(約725億円*)で売却されているから、いかにトミー・ヒルフィガーが評価されているのかがわかる。トミーはまだ60代であり、まだまだやりそうな気配ではある。余計なことだが、2005年にトミー・ヒルフィガーはカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)社を買収しているが、今はどうなっているのだろうか。


*1ドル=111円換算(3月18日時点)

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