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「2021年重大ニュース」その1:コロナ下のデザイナーの死をめぐって

Dec 3, 2021.三浦彰Tokyo, JP
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生前のヴァージル・アブロー(左)とアルベール・エルバス(Photo:Rindoff/Dufour)

2020年1月に日本上陸した新型コロナウイルスは2021年も全世界の経済を大きく停滞させた。2008年9月15日の米国大手証券会社リーマン・ブラザーズ倒産に端を発した、いわゆるリーマン・ショックがその後5年間(その後10年間という見方もある)世界経済を低迷させたのを思い出させるが、最近の欧米での感染再拡大やオミクロン株の跳梁などを見ると、さらなる停滞を覚悟しなければならないのかと暗澹たる気持ちになる。そうは言っても、2020年比較で言えば2021年はかなり回復した印象はある。しかしそれは「最悪」だった2020年との比較の数字である。「正常」だった2019年レベルに復帰できるのかが課題なら、それは2022年中に実現できるのかどうか。それが来年を考える上でのポイントになってくるだろう。そんなことを考えながら、今年2021年をいくつか重大ニュースで振り返ってみた。

4月24日にデザイナーのアルベール・エルバス(Alber Elbaz)が59歳で新型コロナウイルス感染のために急死した。コンパニー・フィナンシエール・リシュモンと新プロジェクトを立ち上げて今年1月に新ブランド「AZファクトリー」のファーストコレクションを発表したばかりだった。

個人的には、「シャネル(CHANEL)」のカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)の後を継ぐのは、ジャン=ポール・ゴルチエ(Jean-Paul GAULTIER)かエルバスだと思っていた。ゴルチエ(1952.4.24〜)は昨年1月19日のオートクチュール・コレクションショーを最後にファッションデザイナーを引退してしまった。今後は毎シーズン月とクリエイターを迎えてオートクチュールを制作するという新プロジェクトを立ち上げた。どんなものになるのか興味津々だったが、第1回のゲストはなんと「サカイ(sacai)」のデザイナー阿部千登勢。コロナ禍による2度の延期を経て、ショーは今年7月7日に開催され大きな話題になった。引退とは言うものの、ゴルチエは今年5月には6年ぶりに再開したプレタポルテ・コレクションを発売するなど、未練タラタラの動きをしている。

亡くなったエルバスは、「ランバン(LANVIN)」のウィメンズ・デザイナーとしてのパリ・エレガンスの現代的なあり方を見事に表現しきった天才だった。「AZファクトリー」は14年在籍した「ランバン」の後の一里塚で、「シャネル」チーフデザイナー就任の可能性は残されていたと思う。急逝が本当に惜しまれる。

一方、11月28日に心臓血管肉腫という希少癌で急死したのがヴァージル・アブロー(1980.9.30生まれ。享年41)だ。2013年にハイエンド・ストリートブランドの「オフ・ホワイトc/oヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」を立ち上げ、2018年3月25日には「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」メンズのアーティスティック・ディレクターに任命されて、まさにストリート・ラグジュアリーの急先鋒だった。実業家にして建築家、DJでもあったアブローの後任は誰になるのか大いに注目だ。

こうしたストリート・ラグジュアリーの流れを受けて、アブローを「ルイ・ヴィトン」メンズのアーティスティック・ディレクターに抜擢したLVMHは「ケンゾー(KENZO)」のアーティスティック・ディレクターに日本人デザイナーのNIGOを大抜擢した。個人的には「え!?」と驚くような人事で、正直「大丈夫なのかな?」と思えなくもないが、ストリート・ラグジュアリーの波がここまで来ているのかを実感させるような人事だ。前述したゴルチエ・クチュール・プロジェクトの第1回ゲストに阿部千登勢が選ばれたように、日本人デザイナーの才能を過小評価しているのは、むしろ日本人の我々なのかもしれない。

2021年に鬼籍に入った日本人デザイナーには、「ミスター・ジェントルマン(MISTERGENTLEMAN)」のオオスミタケシ(大澄剛史)がいる。敗血症が死因だったが、まだ47歳の若さだった。「ミスター・ジェントルマン」は吉井雄一をプロデューサーに、マッシュホールディングスをスポンサーにして立ち上げたブランドだった。オオスミタケシの名をファッションマニアの間で一躍高めたブランドは、東京ファッションウィークにも登場した「フェノメノン(PHENOMENON)」だった。オオスミはヒップホップユニット「シャカゾンビ(SHAKKAZONBIE)」のメンバーBig-Oとしても活躍していたから、DJやバンドもやる最近のストリート・ラグジュアリー系のファッションデザイナーの典型のひとりだった。3月の東京ファッションウィークに発表するコレクションの製作を病室でも行っていたという。あの愛らしい巨体が今でも目に浮かぶ。合掌。

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