ゾゾを昨年9月にソフトバンクグループのZホールディングス(旧ヤフー)に売却し、社長を辞任した後は「真剣お見合いドキュメント〜FULL MOON LOVERS〜」(Abema TV)に出演予定だったのにドタキャンするなど、ファッション業界とは縁を切ったかに見えた前澤友作氏が、やはり「蛇の道は蛇」、ファッション業界へ戻ってきた。8月13日、同氏が個人としてユナイテッドアローズ(以下UA)及びアダストリアの株を大量に保有していることが判明したのだ。UA株は約35億円を投じて、全体の7.97%に当たる240万株を取得し、アダストリア株は約39億円を投じ全体の5%にあたる273万株を取得している。両社ともファッションECモール「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」で上位にランクされる有力テナントであるだけに、一体なぜ?の声が上がっている。いずれも少しずつ市場で買い増ししているので、同氏の買いで株価に影響はなかったようだ。UAには「お世話になったので純投資したい」旨の連絡があったという。両社の「内情」に詳しい前澤氏が大量保有したということになれば、両社とも今後は有望ということになるが、UAの第1四半期(4〜6月)は当期純損失35億8700万円を計上、アダストリアの第1四半期(3〜5月)は当期純損失36億8100万円を計上しているのだから、前澤氏の投資は大失敗ということになる。投資勘の方もすっかりダメになったのかということになるのだが、これは両社に接近する布石だという見方がある。
というのは、UAの総売上高に占めるECの割合は2020年3月期で前期比16.8%増の292億1700万円で、総売上高の22.6%を占める。これはファッション企業としてはトップレベルの水準である。しかし、前期には自社ECサイトがシステム障害で長期休止するというアクシデントがあったのは周知の通り。9月12日に自社ECサイト刷新のために、サービスを一時的に停止していたが、10月にリニューアルしたサイトを再開する予定だったが遅れが生じて再開することができずに、ゾゾグループのアラタナに再委託するという大失策をやらかしている。現在は自社での運営に切り替わっているはずだが、社内にECシステムに明るい人材が不足しているのを露呈したことは事実。特に最近はECサイトにオムニチャネルの核になる才能が求められており、システムが複雑化しているのだという。
実は、アダストリアに関しても同じようなシステム事故が昨年あった。アダストリアは昨年8月1日、グループの24ブランドを統合したECサイト「ドットエスティ(.st)」をリニューアルオープンした。しかし、システムの不具合により、同8日にはサイトを休止。旧システムへの切り戻しを行い、9月12日にはサイトを再開。当初、サイトリニューアルで実現する予定だったオムニチャネルサービスは、2021年2月期以降に延期するという苦杯をなめている。
UA、アダストリアともに社内にECシステムに通じた人物が不足すると同時に、経営陣もECに関してはほぼ素人レベルの人物しかいないと言われている。
そこに来て、この元ゾゾ社長の前澤氏の両社株の大量取得である。ECシステムに関するアドバイザーとして、両社と前澤氏の間になんらかの関係がいずれ構築されるのではないかという推測は、あながち間違ってはいないだろう。ちなみに前澤氏は依然としてゾゾの17.87%にあたる5455万株を保有しており、ゾゾの親会社であるZホールディングスに次ぐ第2位の大株主にとどまっているという。