5月23日付の繊研新聞によると、二転三転していたGAPフランスの買収がやっと決まったようだ。GAPフランス社株を保有していたウィルサムは3月にグルノーヴル商業裁判所に民事再生手続きを申請中だったが、このほどスポディスがGAPフランスを30万ユーロ(約4,500万円、1ユーロ=150円で換算)で買収した。スポディスは英国のスポーツ&ファッション用品専門店JDスポーツの子会社だという。しかし買収価格が30万ユーロ(約4,500万円)という安さには驚いた。いずれにしてもGAPのヨーロッパ戦略は簡単に言うと大失敗ということだ。ここ10年ばかりの業績低迷の原因の一つになっていると思える。今後のヨーロッパ戦略の基本はEC販売でカバーしていくということになるだろう。
「ギャップ(GAP)」がヨーロッパでは受け入れられないということがハッキリしたのだが、GAP社の努力が足りなかったのか?アメカジはヨーロッパではダメなのか?
思い起こせば1980年〜1990年代のカジュアル市場を席巻したイタリア・ヴェネト州ポンツァーノ発の「ベネトン(BENETTON)」も2000年以降は急激に売れなくなった。現在のベネトングループはすでにアパレルが中心的ビジネスではなくなってしまっている。金融と投資事業が中核になっている。ベネトン社のこの転身術は見習うべき点が多い。
爆発的な人気を獲得したブランドはその人気を支えた世代が年齢を重ねて嗜好が変化してしまうと衰退してしまうケースがある。
現在復活に向けての「リボーン計画」を推進している「サマンサタバサ(Samantha Thavasa)」ブランドも、そうした一時爆発的な人気を獲得した後にファンが「卒業」してしまったために低迷を余儀なくされたブランドと言えるだろう。これも5月23日付の繊研新聞の「改革進むサマンサタバサ」という記事だが、それによると「「サマンサタバサ」を40代、50代を含む層にも対応したMDに整え、高級感を加味した企画を充実している」とある。これは難易度が高過ぎる施策である。40代、50代の女性は、2000年前後に「サマンサタバサ」が大ブームを起こした頃の主力顧客である。そうした女性たちが高級感を増した「サマンサタバサ」を見ても購買に繋がるとは考えづらいが。もちろん現在の20〜30代にキャピキャピした「サマンサタバサ」を訴求して購買に結び付けようということも難しいことではあるが、40代、50代に高級感のある「サマンサタバサ」を訴求するのに比べればまだ可能性はある。
ブランドには「寿命」というものがあるのだ。半永久的にブランドが生き続けようとすれば、そこにはラグジュアリーブランドが現在実践しているようなアーカイブ方式とクリエイティブ・ディレクター起用による絶え間ない革新と高度なマーケティングと職人によるクラフトマンシップの継承が不可欠なのだ。
「サマンサタバサ」のブランド創始者・創業者である寺田和正氏(2019年に所有する株式を大手紳士服チェーンのコナカに売却し現在は「サマンサタバサ」の海外事業とスイーツ事業者の推進を目ざすサマンサグローバルブランディングアンドリサーチの代表)にインタビューした時に、「サマンサタバサ」をどんなブランドにしたいかと質問した時に寺田氏は間髪をおかずに「『エルメス(HERMES)』です」と答えた。あ、この人は分かっているんだと私は思ったものである。「エルメス」には20代、30代、40代、50代というように年代別に商品政策が別れることは決してない。「エルメス」は「エルメス」なのである。こうした欧米のラグジュアリーブランドが日本に誕生するのはいつになるのだろうか。「ギャップ」「ベネトン」「サマンサタバサ」が歩んできた長く険しい坂道を思うとブランドビジネスの難かしさを痛感せずにはいられない。