今どき、「出版不況がその深刻の度合いを深めている」と書いても、「そんな当たり前のことを書いてるんじゃないよ」と誰も見向きもしてくれなさそうだが、そうは言ってもこれは書かずにはいられない。
2020年2月から始まり、3年に及んだ新型コロナウイルス感染拡大は、ようやく収束の様相を見せ始めている。完膚なきまでに打ちのめされた飲食業を始めとして、小売業などが「復活」に向けて歩みを始めている。しかし、どうも出版業界を取り巻く状況は、芳しくない。コロナ禍が始まった当初は「巣ごもりで本や雑誌が売れている!」といった声も聞かれたのだが、相変わらず書店の閉店はコンスタントに続いており、コロナ禍が収束した現在、新たな危機が始まっているのだ。
そのひとつがコンビニでの雑誌販売中止の動きだ。コロナ禍収束でインバウンド(訪日観光客)が一気に回復しているが、こうした動きに合わせて、インバウンドのコンビニ消費急拡大に対応すべく、日本人、それも高齢の日本人しか利用しない雑誌コーナーの撤廃に某コンビニ大手が動くという。2000年代には雑誌のコンビニ販売が雑誌不況の救世主になるとまで言われたものだ。しかし、現在コンビニにおける雑誌販売の割合はせいぜい1%程度だという。急増するインバウンドのコンビニ買いに対応するのに雑誌コーナーを潰してしまうのは当然の成り行きだろう。これにコンビニ各社が右ナラエするのは必然の流れになるだろう。
よく考えてみれば、日本人しか利用しない書店というのも、インバウンド消費とは無縁の存在であり、インバウンド狙いで商売替えをした方がいいと考える都心の書店も少なくないだろう。
コンビニ流通で最大手日販に肉薄する存在になったというトーハンにはかなりの打撃になりそうなのだが、同社の2023年3月期決算では、出版流通事業が4期連続で経常赤字になるのはほぼ確実だと言われている。さらに出版流通業界で喫緊の大問題とされているのがトラック運転手の労働時間規制を強化する「2024年問題」だ。トーハンの近藤敏貴社長は日本経済新聞5月24日号で「書籍・雑誌の運搬費の値上げを出版各社に相談する」と語っている。
値上げになるのは運搬費だけではない。ロシアのウクライナ侵攻(2023年2月24日)以来エネルギー価格、紙代はさらに高騰している。とくに紙代は出版各社を直撃している。出版社はページを減らすか、定価をあげるしか道はなくなっている。すでに文庫本で平均800円、新書で平均1000円を超えたという。学生に尋ねると「とても新品では買えない。アマゾンで中古本を買うか、図書館を利用するしかない」という答え。書店が閉店するわけである。
現在週刊誌の定価は500円程度だが、年内に一気に700円台への値上げが検討されているという。将来的には週刊誌が1000円になるのではないかと出版関係者の間では論じられている。
今年に入ってから、週刊朝日、週刊ザ・テレビジョン、イブニング、WEB+DB PRESS、週刊碁が休刊しているが、特に紙代の負担が大きい紙の週刊誌では休刊を検討していない週刊誌はほとんどないと言われているほどだ。出版不況はクライマックスを迎えている。