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コム デ ギャルソン社のブランド名変更の真相に迫る

Oct 22, 2021.三浦彰Tokyo, JP
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左:「タオ」2022年春夏コレクション、右:「コム デ ギャルソン」2022年春夏コレクション

コム デ ギャルソン社でちょっとした「事件」が起こった。10月19~22日に南青山の同社本社で行われた2022年春夏ファッションショーで、その「事件」が明るみになった。同社で最大規模を誇るブランドである「トリコ・コム デ ギャルソン(Trico COMME de GARÇONS)」のブランド名が「タオ(tao)」に変更されたのだ。「タオ」とは言うまでもなく、同ブランドを現在手掛けている栗原たおのことである。インタビューで栗原は「長く経験を積んだことで、さらに自分らしさを強くしたいという気持ちがあった」(FASHIONSNAP.COM)と語ったという。「トリコ・コム デ ギャルソン」が誕生したのは1981年。デザイナーは川久保玲、渡辺淳弥を経て、2002年から栗原に引き継がれていた。栗原は自分の名前を冠したブランド「タオ・コム デ ギャルソン」を2005-06秋冬に立ち上げ、「トリコ」と兼任でデザインしていたが、結婚・出産・育児があって「兼任は難しい」という同社の川久保玲社長の判断により「タオ・コム デ ギャルソン」は2011年春夏をもって終了した。それから11年が経過し、「トリコ・コム デ ギャルソン」が今回「タオ」に変更になったというわけだ。すでに栗原は2児の母親だが、この決定を行った川久保玲社長にはどんな考えがあったのか。

実はブランド名変更は、「トリコ」だけではなかった。「ジュンヤ ワタナベ・コム デ ギャルソン(JUNYA WATANABE COMME de GARÇONS)」は「ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)」へ「コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン(COMME de GARÇONS JUNYA WATANABE)」は「ジュンヤ ワタナベ マン(JUNYA WATANABE MAN)」へ変更。いずれも「コム デ ギャルソン」がブランド名から省かれることになった。同社のもう一人のデザイナーである二宮啓の「ノワール ケイ ニノミヤ(noir kei ninomiya)」については従来通りだ。要するにパリコレで発表されている「コム デ ギャルソン」が冠される「コム デ ギャルソン」(ウィメンズ)、「コム デ ギャルソン オム プリュス(COMME de GARÇONS HOMME PLUS)」(メンズ)の2ブランドだけが創業デザイナーである川久保玲が手掛けたものということだ。不思議なことに「Rei Kawakubo」という名前がどこにも使われていないのだ。

こうしたブランド名変更がなぜ行われたかについては、様々な見方があるのだろうが、私見を述べてみると、この展示会に先駆け10月11日に79歳の誕生日を迎えた川久保玲社長の思いが込められているのではないかというのが自然な見方ではないのか。

これを80歳ではなく79歳の時に実行するのが「いかにも」川久保流だと思う。いくら人生100年時代といっても79歳を迎えた創業デザイナー社長が自身の会社の未来をどうしていくかを考えないわけがない。ラグジュアリーブランド化していないデザイナー企業はそのほとんどが破綻を経験している。日本に限っても山本寛斎、森英恵、山本耀司しかりである。そうした中にあって、これだけのブランドを抱えデザイナーのクリエイティヴィティをベースにしたデザイナー企業を発展させて来た「コム デ ギャルソン」という奇跡のような存在はいくら称賛しても称賛し過ぎることはないだろう。まさに「コム デ ギャルソン」は経営をもデザインして来た川久保玲そのものであったのだ。そして他のデザイナーたちはより自分たちの個性を推し進めつつビジネスを発展させていきなさいという願いをこめて、「コム デ ギャルソン」を各デザイナーのブランド名からはずしたのではないだろうか。

ファッションとは関係ないが、10月7日に人間国宝である落語家の柳家小三治が81歳で心不全のため東京・新宿区の自宅で急死した。最後の高座(「猫の皿」)は5日前だった。この死を知った時、私は翌日に79回目の誕生日を迎える川久保玲のことを思った。天命はいつ尽きるかわからないものである。一方、90歳にして今年ノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎氏の矍鑠とした様子を見たときも川久保玲のことを思った。厳しい健康管理をしていると思われる川久保玲のことだから、90歳になっても元気でデザイン活動をしているかもしれない。10月4日に発表された「コム デ ギャルソン」の2022年春夏コレクションの童心に立ち帰ったような大胆なフォルムと色の遊びを見て、衰えを感じさせないデザインの魔術をいつまでも見せて欲しいと思った次第である。

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